62歳の女性が、ツアーで70歳の未婚男性と話す機会があった。彼はこう打ち明けたという。いい縁はあったけれど、どうしても踏み切れなかった。
彼女自身も最後の一歩を踏み出せずに婚期を逃した経験があった。だから、その言葉が自分のことに聞こえた。当日はカップル成立に至らなかったが、後日の交流会で結婚に進んだ友人の話を聞き、複数回参加する価値があると感じたそうだ。
熟年のバスツアーに集まっているのは、そういう人たちになる。離婚した人、死別した人、踏み切れないまま年を重ねた人。同じバスに乗って、同じ景色を見ながら、それぞれの取り返しのつかなさを抱えている。
熟年のバスツアーで、実際に起きていること
平均年齢60歳前後、離婚と死別が前提になっている
参加者は50代後半から70代が中心で、平均年齢が60歳前後のツアーが多い。募集の年齢設定も、男性52歳から72歳、女性48歳から69歳といった幅で組まれている。
参加者の大半が離婚か死別を経験している。初婚のまま熟年を迎えた人は少数派になるが、その少数派も確実にいる。離婚歴のある人、ない人、未婚の人が同じテーブルに座り、それぞれの人生を話す。
だから、過去を隠す必要がない。むしろ隠している人のほうが浮く。
成立した組数の実例
- 梅園を巡るツアーでは、51歳から70歳の男女およそ30人が参加し、8組が成立した
- 鳥取へ向かうツアーでは、52歳から72歳の男女28人のうち5組が成立している
- ツアーをきっかけに、わずか4か月半で結婚まで進んだ人もいる
三十人のうち八組なら、参加者の半数以上が誰かとつながって帰ったことになる。成立率を五割前後と掲げるツアーが多いのは、この水準を指している。
梅園のツアーで意気投合したのは、離婚から26年になる女性と、ボランティア活動が活発な男性だった。異性といるとおしゃれもするし、ハリが出る。彼女はそう話し、もう熟年だから若くないと笑いながら喜んでいた。
参加費と、日帰りと泊まり
日帰りのシニア向けツアーで、男性が1万6000円から1万7000円ほど、女性はそこから1000円ほど安い設定が中心になる。自治体が主催する婚活イベントなら5000円程度のものもある。
一泊の形式もある。食事が四回ついて温泉に入るような行程で、日帰りより単価は上がるが、話せる時間は圧倒的に長い。初めてなら日帰りから入ったほうが負担は軽い。
集まっているのは、踏み切れなかった人たち
いい縁はあったけれど踏み切れなかった
冒頭の70歳の男性の言葉は、この場所の空気をそのまま表している。
若い頃に縁がなかった人は、実はそう多くない。縁はあったが、仕事が忙しかった、親の介護があった、相手の家族と折り合わなかった、単に決められなかった。そういう理由で通り過ぎてきた人が、四十年後に同じバスに乗っている。
この共通点があるから、初対面でも話が早い。若い頃の婚活のように、自分を大きく見せる必要がない。踏み切れなかったという一点で、全員が対等になる。
一人でいると何かあった時が怖い
3回目の参加で成立した63歳の男性は、こう語っていた。一人でいると何かあった時が怖い。
この動機を、恋愛ではないから不純だと考える人がいる。ただ、この年代で相手を探す理由としては、これがもっとも正直で、もっとも多い。夜中に倒れたときに気づく人がいるか。手術の同意書に名前を書ける人がいるか。恋愛の話ではなく、生存の話に近い。
子どもから、一人で生活させるのは心配だと勧められて参加し、結婚に至った74歳の女性もいる。動機が外から来ていても、結果まで届くことはある。
65歳以上では、一人暮らしが最多になった
不安には根拠がある。2024年の国民生活基礎調査で、65歳以上の高齢者がいる世帯の内訳は、夫婦のみの世帯を単独世帯が上回って最多になった。
一人暮らしの高齢者のうち、他者との会話がほとんどないと答えた人の割合は7.0%で、二人以上の世帯の2.2%を大きく上回る。将来の推計では、単独世帯の割合はすべての都道府県で上がり続けるとされている。
何かあった時が怖いという感覚は、個人の弱気ではなく、社会の構造から出てきている。
質問が生活の内訳に集中する理由
年金額、貯金、持ち家の今後、同居予定、旅行の回数
ある参加者は、後日に喫茶店で会ったときの会話に辟易したという。年金はいくらか。貯金は。持ち家は今後どうするのか。娘との同居の予定は。月に何回旅行に連れて行ってくれるのか。毎晩の晩酌はどうしているのか。
矢継ぎ早に、そればかりだった。
聞いている側に悪気はない。この年代で一緒に暮らすかどうかを決めるには、これらの答えが要る。若い頃なら数年かけて分かっていくことを、残り時間の短さが前倒しさせている。
数える側に回った瞬間、自分も数えられる
とはいえ、質問の順番と量には意味が出てしまう。
パートナーを作って、その人にしてほしいことを優先する人が多い。ある男性参加者はそう感じていた。してあげたい、一緒にやりたいが先に来ないと関係は続かない、とも。
条件を先に並べる人は、相手を安心の材料として数えている。そして、数え始めた瞬間に、自分も同じ目で数えられることになる。年金はいくらかと聞いた人は、次の瞬間から自分の年金額を評価される立場に入る。
熟年のバスツアーで選ばれない人の多くは、失礼だから選ばれないのではない。求めているものが受け取る側だけだと、八時間かけて伝わってしまうからだ。
成立していた二人は、両方とも与える側だった
梅園のツアーで意気投合した二人を、もう一度見てほしい。
女性は、異性といるとおしゃれもするしハリが出ると話していた。自分が変わることを楽しんでいる。男性はボランティア活動が活発だった。すでに誰かのために動いている人だ。
どちらも、相手から何を引き出すかの話をしていない。この差が、同じバスの中で八時間かけて表に出る。
当日の立ち回りと、疲れない配分
フリータイムで一人になりそうになったら
観光地の自由時間が、いちばん孤独になりやすい。会話の相手が決まらないまま、集合時間まで一人で立っていることになる。
そうなりそうなときは、同性と行動する。参加者の間でよく言われている対処になる。一人でいるより、同性と二人でいるほうがはるかに声をかけてもらいやすい。同性同士で固まらないようグループを組ませる運営もあるが、全員には行き渡らない。
写真を撮りましょうと声をかけるのが、この年代でもっとも自然な入口になる。
メモと連絡先の扱い
- プロフィールカードの端に、話した内容と印象を一言ずつ書く。誰が誰だか分からなくなるほど話すので、記録がないと帰りに選べない
- 感触が悪くなかった相手には、カップル発表を待たずに連絡先を交換しておく
- 当日成立しなくても終わりではない。60代の女性は、当日は成立しなかったが翌日に連絡が来て、そのまま交際が続いている
- 翌日に連絡するときは、あのとき話したあの件、と具体的に書く
判定が出るのは帰りのバスではなく、その次の日になる。
泊まりツアーで起きること
一泊の形式は、話す時間が長い分だけ相手の素が見える。ただ、夜の時間の過ごし方は運営によってまちまちになる。
宴会の後で男性陣が集団でどこかへ消えてしまったという出来事もあった。部屋割りがどうなっているか、夜の自由時間があるかどうかを、申し込む前に確認する。初参加なら日帰りにして、二回目以降で泊まりを検討するほうが安全になる。
危ない場面と、断る権利
連絡先を断ったあと
連絡先の交換を断ったところ、サクラだろうと疑われた人がいる。強引に体に触れられて、それがトラウマになった人もいる。
断ることは、参加者の当然の権利になる。渡したくない相手には渡さない。渡してしまった後でも、削除やブロックをして構わない。
- その場で困ったら、添乗員や進行役にすぐ伝える。中高年向けのツアーには相談役が同乗していることが多い
- 帰りの交通手段を自分で選べる行程かどうかを、申し込み前に見ておく
- 連絡先はメッセージアプリのIDにして、検索されない設定にしておく
- 後日に二人で会うときは、昼間の公共の場所を指定する
主催と行程の選び方
参加時に身分証を確認する運営を選ぶ。自治体が主催しているものは確認が厳しく、参加者の身元がはっきりしている。
カップル発表をしない方式のツアーもある。誰と誰が成立したか周囲に分からないので、断られた場面が人目にさらされない。初参加で緊張が強いなら、この方式のほうが気楽になる。
何回参加するか
5回中3回、10回目で出会えた人
5回参加して3回マッチングした男性がいる。条件を細かく聞いてくる相手には疲れたそうだが、会話が得意な人は一対一の時間を活かせると感じている。
修学旅行のような軽い気持ちで参加し、10回目でようやく相性の良い相手に出会った人もいる。3回目の参加で運命を感じたと語る63歳の男性もいた。
一回で決まる場ではない。これは能力の話ではなく、確率の話になる。三十人のうち自分に合う人が一人か二人という前提なら、通う回数がそのまま可能性になる。
修学旅行のような軽さで行く
終始笑顔でいて、興味のない相手とも話し続ける。合う人がいなければ、残りの数時間は消化試合になる。この疲れ方は独特で、一日では抜けない。
だから、出会いだけを持ち帰る前提にしないほうがいい。梅園も、鳥取の海も、温泉も、それ自体は楽しめる。観光を純粋に楽しむ気持ちで行った人ほど、結果的に表情が良く、話しかけられている。
食事会の反省会が残すもの
離婚歴のある人、ない人、未婚の人。それぞれの人生を持った人たちが、食事会で反省会のように語り合って仲良くなる。参加者がこの場の魅力として挙げるのが、この時間になる。
異性との縁がその日に生まれなくても、同じ立場の同性の知り合いは残る。次のツアーで顔見知りがいるかどうかで、当日の心細さがまるで違う。
踏み切れなかった人たちが、もう一度踏み切ろうとして同じバスに乗っている。その事実だけでも、行く理由になる。
Q. 熟年の婚活バスツアーの参加者は何歳くらいですか
50代後半から70代が中心で、平均年齢が60歳前後のツアーが多くあります。募集は男性52歳から72歳、女性48歳から69歳といった幅で組まれることが多く、参加者の大半が離婚か死別を経験しています。未婚のまま参加する人も一定数います。
Q. どのくらいの人がカップルになるのですか
51歳から70歳の男女およそ30人が参加したツアーで8組、52歳から72歳の28人が参加したツアーで5組が成立しています。成立率を5割前後と掲げるツアーが多く、ツアーをきっかけに4か月半で結婚まで進んだ人もいます。
Q. 参加費はいくらですか
日帰りのシニア向けで男性が1万6000円から1万7000円ほど、女性はそこから1000円ほど安い設定が中心です。自治体が主催するイベントなら5000円程度のものもあります。一泊の形式は単価が上がる代わりに話せる時間が長くなります。
Q. 当日カップルにならなかったら終わりですか
終わりではありません。当日は成立しなかったものの、翌日に連絡が来てそのまま交際が続いている60代女性の例があります。感触が悪くなかった相手とは、発表を待たずに連絡先を交換しておいてください。
Q. 年金や貯金を聞かれたらどう答えればいいですか
答えたくない範囲は答えなくて構いません。この年代で一緒に暮らすかを決めるには必要な情報ですが、初対面で矢継ぎ早に並べられて辟易したという声も多くあります。自分が聞く側に回ると、同じ目で評価される立場に入る点も意識しておいてください。
Q. フリータイムで一人になってしまったらどうすればいいですか
同性と行動してください。参加者の間で共有されている対処です。一人で立っているより、同性と二人でいるほうが声をかけてもらいやすくなります。写真を撮りましょうと声をかけるのが、この年代では最も自然な入口になります。
Q. 連絡先を断ってもいいですか
断って構いません。断ったところサクラだと疑われた例や、強引に触れられた例もあります。渡した後でも削除して問題ありません。その場で困ったときは添乗員や進行役にすぐ伝えてください。
Q. 何回くらい参加すればいいですか
5回参加して3回マッチングした人、10回目で相性の良い相手に出会った人、3回目で成立した人がいます。一回で決まる場ではなく、通った回数がそのまま可能性になります。出会い以外に、同じ立場の同性の知り合いが残ることも次につながります。

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