施設に預けたまま、家に帰してあげられなかった。その引け目を抱えたまま、葬儀の準備をしている人は多い。
退所の日、スタッフがずらりと並んで見送ってくれた。葬儀の前にはメッセージカードが届き、供花と弔電もあった。家族の代わりに大切にしてくれた人がいたのだと分かって、涙が出た。そう話していた人がいた。そのカードを何度も読み返すうちに、父への手紙を書こうと思ったという。
手紙は棺に入れられる。書く内容に決まりはない。
先に実務だけ確認しておく。
- 紙の手紙は副葬品としてよく使われていて、問題なく納められる
- 大量に入れると燃焼の妨げになるので、枚数は控えめにする
- 存命中の人が写っている写真を一緒に入れるのは避ける慣習がある
- 迷うものがあれば、葬儀社に確認する
手紙は棺に入れて構わない
紙の手紙は火葬の妨げにならない
副葬品として棺に納められるものの条件は、燃えやすく火葬を妨げないことになる。手紙はこの条件を満たすので、花と並んで最もよく納められるものの一つだ。
生前はうまく話せなかった思いを短くまとめ、初めて父宛に手紙を書いて棺に入れた人がいた。ありがとう、ごめんね、安心して。書き始めると、その三つが自然と出てきたという。
入れるときの三つの注意
まず、枚数を絞る。一人一枚か二枚に収める。家族全員が書く場合は、まとめて一つの封筒に入れると納めやすい。
次に、封筒や便箋の素材を見る。金や銀の箔が押されたもの、ビニールのコーティングがされたものは避ける。白無地の便箋と封筒が扱いやすい。
三つ目に、写真の扱いになる。故人だけが写っている写真は納められるが、存命の人が一緒に写っていると、連れて行かれるという言い伝えを気にする人がいる。気になるなら、写真は複製を作って納める。
納めるタイミングは、出棺前のお別れの時間になる。火葬場ごとに運用が違うので、判断に迷ったらその場で無理に入れず、葬儀社に一声かける。
故人への手紙の例文
そのまま使える形で並べる。名前や地名を入れ替え、要らない部分を削って使ってほしい。
親へ
お父さんへ
長いあいだ、お疲れさまでした。
私が仕事で家を空けてばかりだった頃も、何も言わずに待っていてくれましたね。あのとき言えなかったけれど、感謝しています。
施設に入ってからの三年、面会に行くたびに手を握ってくれたことを覚えています。名前を呼ぶと目を開けてくれた日もありました。私にとっては、あの時間が宝物です。
こちらのことは心配しないでください。みんなで支え合っていきます。
母さんと、ゆっくりしてください。ありがとう。
配偶者へ
長いこと一緒にいてくれて、ありがとう。
あなたが施設に入ってから、家の中がずいぶん静かになりました。あなたのいびきがうるさいと文句を言っていたのに、無くなると眠れないものですね。
最後の何年かは、私が思うように支えてあげられませんでした。会いに行くのが週に一度になった時期もあって、そのことをずっと悔やんでいます。
それでも、私と結婚してくれてよかったと思っています。あなたと過ごした年月が、私の人生でした。
先に行って待っていてください。もう少ししたら、そちらで文句を言いに行きます。
施設に預けたことを悔いている場合
引け目を抱えている人ほど、そのまま書いていい。取り繕う必要はない。
お母さんへ
最後まで家に帰してあげられなくて、ごめんなさい。
何度も、連れて帰ろうかと考えました。でも私にはできませんでした。仕事も家庭もあって、体力も足りませんでした。情けないと思っています。
ただ、施設の方たちはお母さんをとても大切にしてくださいました。髪をきれいに整えてもらって、好きな歌をかけてもらって、名前を呼んでもらっていましたね。私一人では、あそこまでしてあげられなかったと思います。
許してくれるかは分かりません。でも、お母さんが穏やかに過ごしていた時間があったことは、私の救いです。
ありがとう。安心してください。
最期に立ち会えなかった場合
毎週欠かさず面会に通い、母の日にはカーネーションと一緒に大きな字で書いた手紙を添えていた娘がいた。それでも、駆けつけたときには息を引き取ったあとで、その場に崩れ落ちたという。
スタッフから、娘さんがまた明日来ますよと話しかけた直後に静かに旅立ったと聞かされた。間に合わなかったことより、それまでの関わりのほうが大事だったのだと気づかされたそうだ。
お母さんへ
最期に間に合わなくて、ごめんなさい。
連絡をもらってすぐに車を出したのに、着いたときにはもう眠っていましたね。名前を呼んでも返事がなくて、しばらく動けませんでした。
でも、スタッフの方が教えてくださいました。娘さんがまた来ますよと声をかけた直後だったと。それを聞いて、少しだけ気持ちが軽くなりました。
毎週会いに行っていた時間は、無駄ではなかったのだと思うことにします。
こちらは大丈夫です。どうかゆっくり休んでください。
孫やひ孫から
短くていい。子どもの字はそのままで構わない。
おじいちゃんへ
いつもあめをくれて、ありがとう。
しせつにいったとき、いつもわらってくれてうれしかったです。
ぼくは四月から中学生になります。やきゅうをがんばります。
てんごくからみていてください。
何を書けばいいか分からないとき
四つの要素を一つずつ
手が止まったら、一度に全部を書こうとしないほうがいい。順に並べるだけで形になる。
- 感謝。してもらったことを一つ具体的に挙げる
- 詫び。できなかったことを一つだけ書く
- 報告。いま家族がどうしているかを伝える
- 見送りの言葉。ゆっくり休んでください、また会いましょう
四つのうち、書けるものだけでいい。全部揃わなくても手紙になる。
いちばん伝わるのは、抽象的な感謝より、具体的な場面になる。夏に病室でスイカを食べたこと。歌が好きで、面会のたびに一緒に歌ったこと。よく怒られた台所の思い出。細部があると、書いている側の記憶も鮮明になる。
うまく書こうとしない
面会のたびにベッド脇のノートに不器用な文字を残していた息子がいた。今日も仕事が長引いた、ごめんな。今日は息子の入学式だった。誰に見せるわけでもない、罪悪感と愛情の記録だったという。母親が亡くなったあと、そのノートを読み返して、改めて手紙を書いた。
その程度でいい。忌み言葉を避けなければ、といった作法を気にする人がいるが、故人へ直接宛てた手紙は儀礼文書ではない。文章として整っている必要もない。
途中で書けなくなったら、そこで終わらせていい。書きかけの手紙を納めた人は少なくない。
施設のスタッフへ送る手紙
もう一つ、書きたいと思う相手がいる。
葬儀のあとすぐに出す場合
拝啓
このたびは、母の葬儀に際して丁重なお心遣いをいただき、ありがとうございました。供花と弔電、そしてスタッフの皆様からのメッセージカードを、家族一同で拝読いたしました。
母が入所してからの四年間、皆様には本当にお世話になりました。私どもが仕事の都合でなかなか足を運べない時期も、母は穏やかに過ごしておりました。面会のたびに髪が整えられ、爪も切っていただいていたこと、家族として何よりありがたく思っておりました。
看取りの場に立ち会ってくださった皆様に、心より御礼申し上げます。母も安心して旅立てたことと存じます。
皆様のご健康を、遠くからお祈りしております。
敬具
落ち着いてから出す場合
四十九日を過ぎてから改めて出す人も多い。事務的な手続きが片付いて、気持ちが言葉になる時期になる。
前略
父の四十九日を無事に済ませ、ようやく落ち着いてまいりました。
在所中は、皆様に長らくお世話になりました。父は口数の少ない人でしたが、面会に行くたび、職員さんの名前を挙げて話しておりました。あの人は優しい、あの人はよく笑う、と。家では見せたことのない顔でした。
私どもは、家に連れて帰ることができませんでした。そのことを悔やむ気持ちは今もございます。ただ、父が最後まで人に囲まれて過ごせたのは、皆様のおかげです。
心ばかりの品をお送りいたします。皆様で召し上がっていただければ幸いです。
草々
入所中の出来事で気まずさが残っている場合も、書いていい。転倒をきっかけにスタッフを一時的に拒んでしまった家族が、後日こう書き送った例がある。父は入院中、あの人を責めたらいかん、自分が勝手にこけただけだと何度も言っていた。私たちの気持ちの整理がつかず、辛い思いをさせてしまったと思う、申し訳なかった、と。受け取ったスタッフは、立っていられないほど心が揺れたという。
品物を渡すかどうか
ここは施設によって扱いが違う。
職員へのお礼は一切受け取らないと掲示している施設がある。高額な品は断るが菓子折りなら受け取る施設もある。事前に相談員や事務に確認してから持参するのが確実になる。
断られた場合は、手紙だけを渡す。無理に置いていくと相手が困る。
渡す場合の目安は3,000円から5,000円ほどで、個包装で日持ちのする菓子が扱いやすい。夜勤の職員にも行き渡るよう、数が多めのものを選ぶ。生菓子は避ける。渡すタイミングは、退所手続きのとき、葬儀後、四十九日のいずれかになる。
書いたあとに起きること
死んでからでは読めない。そう言われたことがある、と話していた人がいた。それでも書いてよかったという。読まれないと分かっていても、書くことで自分の気持ちが整理されたからだ。
手紙は、届けるためだけのものではない。書く過程で、その人と過ごした時間を頭から順にたどることになる。何をしてもらったか、何を言えなかったか。ばらばらだった記憶が、文章という順番の中に並び直される。
書いているあいだに泣く人が多い。葬儀の最中は気を張って泣けなかった人ほど、そうなる。それは崩れているのではなく、必要な作業が始まった合図になる。
悔いが消えるわけではない。家に帰してあげられなかったという思いは、書いても残る。ただ、抱えたまま置いておける形になることはある。
眠れない、食事が取れない、日常が回らない。この状態が二週間以上続くようなら、時間に任せず相談してほしい。遺族向けのグリーフケア外来を置く病院や、地域の遺族会がある。これは繊細な話題なので、いま実際につらさを抱えているなら、相談先を一緒に探すこともできる。
棺に納めた手紙は、灰になって残らない。それでも、書いた側の中には残る。
故人への手紙は棺に入れてもいいですか
問題ありません。手紙は燃えやすく火葬の妨げにならないため、花と並んで最もよく納められる副葬品の一つです。ただし大量に入れると燃焼に影響するため、一人一枚か二枚に絞り、家族全員で書く場合はまとめて一つの封筒に入れてください。
便箋や封筒に決まりはありますか
白無地の便箋と封筒が扱いやすく、縦書きでも横書きでも構いません。金や銀の箔が押されたもの、ビニールでコーティングされたものは燃えにくいため避けてください。文章の作法についても、故人へ直接宛てた手紙は儀礼文書ではないので、忌み言葉などを気にする必要はありません。
何を書けばいいか分かりません
感謝、詫び、いまの家族の報告、見送りの言葉。この四つのうち書けるものだけを並べれば手紙になります。抽象的な感謝より、一緒にスイカを食べた、面会のたびに歌った、といった具体的な場面のほうが伝わります。途中で書けなくなったら、そこで終わらせて構いません。
写真も一緒に入れていいですか
故人だけが写っている写真は納められます。存命の人が一緒に写っている写真は、連れて行かれるという言い伝えを気にする人がいるため、複製を作って納めるほうが無難です。分厚いアルバムは燃焼に時間がかかるので、事前に葬儀社へ確認してください。
いつ棺に入れるのですか
出棺前のお別れの時間に納めます。火葬場によって運用が異なるため、判断に迷うものはその場で無理に入れず、葬儀社の担当者に確認してください。間に合わなかった場合は、四十九日や納骨のときに墓前で読み上げる、仏壇に供えるといった方法があります。
介護施設のスタッフへの手紙には何を書けばいいですか
在所していた期間、してもらって印象に残っていること、看取りへの御礼、家族の近況の四点で十分です。面会に行けなかった時期があったことや、家に連れて帰れなかった悔いを率直に書いても構いません。具体的な場面が入っていると、担当していた職員にまで気持ちが届きます。
施設にお礼の品を渡すべきですか
施設によって扱いが違い、職員へのお礼は一切受け取らないと掲示している所もあります。事前に相談員や事務に確認し、断られた場合は手紙だけを渡してください。受け取ってもらえる場合の目安は3,000円から5,000円ほどで、夜勤の職員にも行き渡る個包装で日持ちする菓子が扱いやすくなります。
手紙を書くと気持ちは楽になりますか
読まれないと分かっていても、書く過程でその人と過ごした時間を順にたどることになり、ばらばらだった記憶が並び直されます。書いている最中に涙が出る人は多く、葬儀中に気を張って泣けなかった人ほどそうなります。悔いが消えるわけではありませんが、抱えたまま置いておける形にはなります。

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