五十代前半で、二十年以上一人暮らしを続けていた男性がいる。若い頃に一度結婚して離婚し、その後は仕事と家の往復だけ。趣味もなく、孤独を感じる日々が続いていた。動いたきっかけは娘の一言だった。お父さん、もう自分の人生を生きたら。
見た目は野暮ったく、体のにおいも気になる状態だったという。一年ほどかけて身の回りを整え、同年代の女性と再婚した。子どもはすでに自立していて、これからの人生を一緒に歩む相手を選んだ形になる。
五十代で結婚した人たちに共通しているのは、好きという気持ちだけで進めなかったことだ。暮らしと家族の整理を、同じ時期に片づけている。順番を間違えると、決まりかけた話がひっくり返る。
五十代で結婚する人は、実際にどれくらいいるのか
結婚するカップルの4組に1組は、どちらかが再婚
2024年の婚姻で再婚が占める割合は、夫が17.9%、妻が15.6%。夫婦のどちらかが再婚というカップルで見れば、およそ4組に1組になる。1965年の時点では11.2%だったので、この六十年で倍以上に増えた。
五十代に絞った数字もある。五十代で離婚した人のうち、5年以内に再婚した割合は夫が19.1%、妻が11.8%だった。50歳以上で再婚した女性は、2021年で1万2648人にのぼる。
珍しい話ではない。ただ、当事者が周囲に大きく告げないので、身の回りで見えないだけになる。
五十代の初婚も起きている
50歳の時点で一度も結婚していない人の割合は、2020年で男性28.25%、女性17.81%。男性の四人に一人以上、女性の六人に一人が該当する。
その中から、五十代で初めて結婚する人が出ている。理想が高すぎると周囲に言われ続けていた五十一歳の女性が、同世代のピアノ講師の男性と出会い、二か月ほどでプロポーズされた例がある。初婚同士で、子どもを持たない選択をした。
平均初婚年齢は夫が31.1歳、妻が29.8歳なので、平均からは遠い。ただ、遠いことと不可能であることは違う。
きっかけは、たいてい外から来る
自発的に婚活を始めた人は、実は少ない。
熊本地震のときに一人でいるのが怖いと感じ、すぐに婚活を始めた五十代の女性がいる。冒頭の男性は娘の言葉だった。子どもの自立、親の死、災害、病気、健康診断の結果。何かが起きて、初めて動く。
きっかけを待っている状態は珍しくない。すでに何かが起きて検索している人は、そこが分かれ目になっている。
決まった人は、好きだけで進めていなかった
暮らしと家族の整理を同時に進める
五十八歳で再婚を決めた女性がいる。離婚歴があり、子どもも社会人になっていた。長く一人暮らしを続けるうちに、結婚に良いイメージが持てないと感じていた時期もあった。
半年ほど婚活を続けて同年代の男性と出会い、新生活を始めた。うまくいった理由を、本人はこう説明している。好きという気持ちだけでなく、暮らしや家族の整理を同時に進めたこと。財産のことも、前の結婚でできた家族との関係も、結婚前にきちんと話し合ったという。
若い頃の結婚は、恋愛が先で手続きは後だった。五十代はその順番が通用しない。守るべき財産と、それぞれの子どもと、老後の年数が、最初から見えているからだ。
相続の話ができるかどうかが、そのまま相性の判定になる
ここに、この年代の結婚だけにある判定の仕組みがある。
相続や財産の話を切り出したときの反応を見る。嫌な顔をするか、先送りにしようとするか、それとも一緒に整理しようとするか。この反応が、そのまま相性の答えになっている。
この話ができない相手とは、この先の二十年も話せない。介護の分担も、家の名義も、施設に入るかどうかも、全部この種類の話になる。避けて通れる期間は、五十代からだと十年もない。
話せない相手とは、この先の二十年も話せない
先延ばしにした場合、何が起きるか。片方が倒れてから決めることになる。判断能力が落ちた後は、選べる手段が一気に減る。
再婚の場合、相続の話を先延ばしにせず早めに触れておくことの大切さは、経験者から必ず挙がる。恋愛の空気を壊すように感じて言い出せない人が多いが、順序が逆になっている。この話をして関係が壊れるなら、それは壊れて正解の関係になる。
籍を入れる前に片づける四つ
- 財産と相続の設計
- 連れ子との養子縁組をどうするか
- 年金がどう変わるか
- 住まいの名義と、どちらの家に住むか
財産と相続。配偶者は必ず相続人になる
婚姻届を出した瞬間から、相手は法定相続人になる。婚姻期間の長さは関係なく、結婚一年でも三十年でも同じだ。
法定相続分は、配偶者が2分の1、子が残りの2分の1を人数で分ける。ここでいう子には、前の結婚でできた子も含まれる。会ったことがなくても、連絡先を知らなくても、遺産分割協議には全員の参加が必要になる。
対策は生前にしかできない。
- 公正証書遺言を作る。誰に何を渡すかを名指しで決めておく
- 子には遺留分がある。法定相続分の2分の1にあたる金額を請求される可能性があるので、そこを織り込んで配分する
- 遺言には付言事項として、そう決めた理由を書き添える。感情のこじれをかなり減らせる
- 自宅については配偶者居住権を検討する。2020年から使える仕組みで、家の所有権が子に渡っても、残された配偶者が住み続けられる
- 相続税には配偶者の税額軽減があり、1億6000万円または法定相続分のどちらか多い額までは相続税がかからない
なお、婚姻期間20年以上の夫婦が使える居住用不動産の贈与の特例は、五十代で結婚すると七十代まで待つことになる。この年代では当てにしないほうがいい。
連れ子と養子縁組をするかどうか
相手の連れ子は、養子縁組をしなければ相続人にならない。同居して何十年育てても、法律上は他人のままになる。
縁組をすれば相続人になるが、扶養の義務も発生する。どちらが正しいという話ではなく、決めていない状態がいちばん危ない。子どもがすでに成人しているなら、本人の意思を確認したうえで決める。
年金でどう変わるか
- 加給年金。厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を同じくする65歳未満の配偶者がいると年40万円ほどが上乗せされる。相手が年下なら、65歳になるまで受け取れる
- 遺族厚生年金。婚姻期間の長さは原則問われないが、生計を維持されていた関係が必要になる
- 制度は移行期にある。2028年4月から、子のいない配偶者への遺族厚生年金は原則5年の有期給付に変わり、子のいない60歳以上の配偶者が無期給付の対象になる。あわせて中高齢寡婦加算が段階的に廃止される
- 離婚を経ている人は、前の婚姻期間の年金分割が済んでいるかを確認しておく
生年月日で結論が変わるので、二人分の年金記録を持って年金事務所で試算してもらうのが確実になる。予約すれば無料で相談できる。
住まいの名義と、どちらの家に住むか
二十年以上一人暮らしを続けた人が、他人の生活時間の中に入るのは簡単ではない。食事の時間、寝る時間、片づけ方、テレビの音量。どちらかの家に入ると、入った側が我慢し続けることになりやすい。
余力があるなら、二人にとって新しい場所に移る。それが難しければ、片方の部屋を完全に個室として確保する。名義については、どちらの持ち家なのか、住宅ローンが残っているのか、亡くなった後に誰のものになるのかを、住み始める前に確認する。
子どもへの伝え方
反対の中身は、たいてい財産と介護
子ども世代が反対するとき、口に出すのは年齢や世間体だが、本当に気にしているのは別のところにある。
財産が家の外に出ること。親の介護を誰がやるのか。亡くなった親の記憶をどう扱われるのか。この三つが中心になる。感情で説得しようとしても届かないのは、相手が段取りの話をしているからだ。
伝える順番とタイミング
- 相手の子どもより先に、自分の子どもに話す
- 結婚する意思が固まってから会わせる。迷っている段階で会わせない
- 初回に相続の話をしない。関係を認めてもらう回と、条件を詰める回を分ける
- 二回目以降に、遺言と財産の整理を進めていると自分から伝える。聞かれる前に言う
- 反対されても即答を求めず、会う回数を重ねる
先に段取りを示す人には、反対しにくい。逆に何も決まっていないまま紹介すると、子どもは最悪の想定で身構える。
五十代の婚活で入れ替わること
求める条件が変わる
五十一歳で結婚した女性は、若い頃と求めるものが変わったと話していた。学歴でも年収でもなく、笑顔と、度胸と、日常の会話。
この三つは、二十代の条件表には出てこない。二十年一緒に暮らす相手として見たとき、毎日効いてくるのはこちらのほうだと、五十代になれば分かる。
寂しさを埋めるためではなく、本音を話せる関係と、無理をしない距離感を求める。この年代の結婚が若い頃と違うのは、そこになる。
見た目と生活習慣を一度見直す
冒頭の男性は、一年かけて自分を見直してから結婚に至った。長い一人暮らしで、服も髪も体のケアも後回しになっていた。
年齢を隠す方向ではなく、清潔さと手入れの方向で整える。服を三着買い替える、髪を切る間隔を短くする、歯科で一度見てもらう。この程度で印象は変わる。
同時に、部屋の状態も見直しておく。相手を招く場面は、思っているより早く来る。
分母を数える
熊本地震をきっかけに婚活を始めた女性は、十三人目の紹介で結婚した。十二人は違ったということになる。
五十代の婚活は、確率の低い抽選に近い。会う人数を確保しないと、良し悪しの判断以前に候補が出てこない。何人目で決まったかを聞くと、二桁になっている人は珍しくない。
三人で結果が出ないことを、自分の魅力の問題として受け取らないほうがいい。
籍を入れない選択もある
籍を入れずに一緒に暮らす形もある。相続の権利は発生しないので、子どもとの摩擦は起きにくい。反対に、相手に財産を残したいなら遺言が必須になり、遺族年金の請求も立証の負担が重くなる。
判断の基準は簡単だ。相手に財産や年金を残したいなら籍を入れる。それより子どもとの関係を優先したいなら入れない。どちらを選んでも、遺言と、医療の同意を誰がするかの取り決めは必要になる。
初婚同士で子どもを持たない選択をした夫婦は、自由な時間を共有し、二人の収入で生活の水準を上げられたことをよかったと振り返っている。形は一つではない。
五十代の結婚が若い頃と違うのは、勢いで進めないところだ。決めるべきことを先に決めた人から、静かに決まっていく。
Q. 50代で結婚する人はどのくらいいますか
2024年の婚姻で再婚が占める割合は夫17%、妻15%で、どちらかが再婚というカップルはおよそ4組に1組です。五十代で離婚した人の5年以内の再婚率は夫19%、妻11%で、50歳以上で再婚した女性は1万2600人いました。
Q. 50代で初めて結婚することはできますか
できます。50歳時点で一度も結婚していない人は男性の28%、女性の17%を占め、その中から五十代で初婚に至る人が出ています。五十一歳で出会い、二か月ほどでプロポーズされた例もあります。
Q. 再婚すると相続はどうなりますか
婚姻届を出した時点で配偶者は法定相続人になり、婚姻期間の長さは関係ありません。法定相続分は配偶者が2分の1、子が残りの2分の1です。前の結婚でできた子も相続人になるため、遺産分割協議には全員の参加が必要になります。
Q. 再婚相手の連れ子に相続権はありますか
養子縁組をしなければありません。同居して長く育てても、法律上は相続人になりません。縁組をすれば相続人になる一方で扶養の義務も生じるため、子どもが成人しているなら本人の意思を確認してから決めてください。
Q. 50代で結婚すると年金はどう変わりますか
厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を同じくする65歳未満の配偶者がいると加給年金として年40万円ほどが上乗せされます。遺族厚生年金は婚姻期間の長さを原則問いませんが、2028年4月から子のいない配偶者は原則5年の有期給付に変わるため、二人分の年金記録を持って年金事務所で試算してもらうのが確実です。
Q. 子どもに反対されたらどうすればいいですか
反対の中身は年齢ではなく、財産の行き先、介護を誰が担うか、亡くなった親の扱いであることがほとんどです。遺言と財産の整理を進めていると自分から先に伝えると、話が感情から段取りに変わります。相手の子どもより先に、自分の子どもに話してください。
Q. 籍を入れずに一緒に暮らすのはどうですか
相続権が発生しないため子どもとの摩擦は起きにくくなりますが、相手に財産を残すには遺言が必須になり、遺族年金の請求も立証の負担が重くなります。相手に財産や年金を残したいなら籍を入れ、子どもとの関係を優先したいなら入れない、という基準で判断できます。
Q. 50代の婚活はどのくらいの期間で決まりますか
半年で決まった人も、一年かけて身の回りを整えてから結婚した人もいます。共通しているのは会った人数で、十三人目の紹介で決まった例もあります。三人ほどで結果が出ないことを魅力の問題として受け取らず、分母を確保することが先になります。

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