定年を迎えた直後、趣味の登山サークルで四十代後半の女性と知り合った男性がいる。最初は年齢差がありすぎると遠慮していた。それでも一緒に山を歩き、料理を作り、仕事の愚痴を聞いてもらううちに、遠慮のほうが薄れていった。周囲からは年が離れすぎだと心配されたが、二人は今の自分たちだからこそ分かり合えると言って結婚した。若い頃の恋愛とは違って、無理をしなくていい安心感がある。彼の言葉だ。
この年齢差でうまくいく二人と、続かない二人がいる。分けているのは年齢差そのものではない。実際に半年で別れたカップルの男性は、年齢差より周りの目と生活のペースが合わなかった、と振り返っている。
以下、この組み合わせに何が起きるのかを、惹かれ合う理由から、先に来る現実、そして結婚するかどうかで変わる年金と相続まで順に見ていきましょう。
この年齢差は、思っているほど例外ではない
出会いの入口はだいたい三つに絞られる
話を聞いていくと、出会い方はほぼ限られている。
- 趣味の集まり。登山、写真、楽器、ボランティア。年齢層が広く、実力や熱量で会話が成立する場所
- マッチングアプリ。四十代で離婚した女性が六十代前半の男性と出会う経路として定着した
- 共通の友人の紹介。年齢差を知ったうえで引き合わせるので、最初のハードルが低い
職場で自然に、という例はほとんど出てこない。六十代男性が四十代女性と対等な立場で長時間過ごせる場が、仕事の外にしかないからだ。逆に言えば、この三つのどれかに身を置いていない六十代男性には、出会い自体が起きにくい。
60代の再婚は数字の上でも動いている
2024年の婚姻で、再婚が占める割合は夫が17.9%、妻が15.6%。婚姻件数のおよそ六組に一組が、どちらかにとって二度目以降になる。
死別や離婚を経て六十代で新しい相手と出会う人は、統計の中にきちんと存在している。周囲が驚くのは、その存在が話題になりにくいだけのことが多い。
惹かれ合う理由は、はっきりしている
40代女性が感じる、競争しなくていい相手
四十代半ばで離婚した女性が、アプリで出会った六十代前半の男性について話していたことがある。最初の食事会で仕事の悩みを打ち明けると、彼は静かに聞いて、的確に返してきた。
同年代の男性には競争意識のようなものを感じることがあった、と彼女は言った。年収の話、役職の話、どちらが正しいかの応酬。それが起きない相手だった。守られている感覚が強かった、という言い方をしていた。
四十代の女性が求めているのは若さではない。自分の話が評価に変換されずに済む場所だ。仕事のキャリアが十分に積み上がっている人ほど、その希少さが分かる。
60代男性が感じる、無理をしなくていい安心
男性側の言葉は、意外にも似た方向を向いている。若い頃の恋愛とは違って無理をしなくていい、久しぶりに胸がときめいた。
見栄を張る必要がなくなった年齢で、それでも誰かに関心を持たれる。この組み合わせが持つ意味は、若さへの憧れとは別のところにある。定年で社会的な肩書きが外れた直後の男性にとって、自分という個体に向けられる関心は、それまでの人生で受け取ってきたどれとも質が違う。
惹かれた理由は、そのまま後の課題になる
ここが見落とされやすい。守られている感覚に惹かれた女性は、いつか守る側に回る。無理をしなくていい安心に惹かれた男性は、いつか無理のきかない自分を見せることになる。
六十代の男性が急に体調を崩し、四十代の彼女が介護に近い形で支えたケースがある。最初は自分の親を見るようだと戸惑ったそうだ。それが時間をかけて、この人となら一緒に老いていくのも悪くない、という感覚に変わった。
惹かれた理由と後の課題は、別々のものではなく同じものの表と裏になる。この対応関係を先に知っておくと、いざその時が来たときに裏切られたと感じずに済む。
別れた二人が挙げた理由は、年齢差ではなかった
生活のリズムがずれる
続かなかったカップルの話をする。男性は朝早く起きて穏やかに過ごすのが好きだった。女性は仕事が忙しく、夜遅くまで連絡が途切れることが多かった。
この差は、年齢差から生まれているように見えて、実際には引退した人と現役で働いている人の差だ。同世代でも、片方が退職して片方が働いていれば同じずれが起きる。ただ、この組み合わせでは必ず片方が引退側になるので、避けようがないぶん表に出やすい。
対処は難しくない。連絡が取れる時間帯を決める、会うのは週末だけにする、平日の連絡は返信を期待しない。ずれを消そうとせず、ずれた状態を前提に設計するほうがうまくいく。
周囲の目、特に子ども世代
同じカップルは、家族の反応にも苦しんだ。男性の息子から、父親の年齢を考えろと直接言われている。
外部の目のうち、他人の視線は時間が解決する。解決しないのは子ども世代だ。相続の当事者であり、介護の当事者でもあるからだ。無関係な立場で反対しているわけではない。
年齢差のせいにすると、直せる問題まで諦める
半年で別れた男性の振り返りは正確だった。年齢差そのものより、周りの目と生活のペースが合わなかった。
この二つは調整できる。生活時間の設計と、家族への説明の順番。どちらも技術の問題であって、二十歳という数字の問題ではない。ところが多くの二人は、うまくいかなくなったとき年齢差のせいにする。そうすると打つ手がなくなり、そのまま終わる。
年齢差は、この関係で唯一変えられないものだ。だからこそ、変えられる問題を年齢差の口座に振り替えないほうがいい。
決めておくと後が軽くなること
結婚するか、しないか
共通の友人の紹介で知り合った、六十二歳と四十三歳のカップルがいる。彼女には中学生の子どもがいて、彼には孫がいた。二人は結婚せず、週末だけ一緒に過ごす関係を続けている。距離感を保ちながら、互いの自由を尊重しているそうだ。
結婚しない選択は逃げではない。ただし、しない場合に失うものは正確に知っておく必要がある。
事実婚には相続権がない
婚姻届を出していない相手には、法律上の相続権が一切ない。何十年一緒に暮らしていても、財産は本人の子や親族に渡る。住んでいた家が相手の名義なら、退去を求められることもある。
この状態を変える方法はある。公正証書で遺言を残せば、内縁の相手にも財産を渡せる。ただし子どもには遺留分があるので、全部を渡すことはできない。同居している家に住み続けたいなら、そこを名指しで指定しておく。
結婚しない選択をした二人ほど、この書類を作っておく意味が大きい。
年金はこの年齢差で扱いが変わる
年金には、この組み合わせで有利に働く仕組みと、注意が必要な仕組みの両方がある。
- 加給年金。厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を同じくする65歳未満の配偶者がいると年40万円ほどが上乗せされる。配偶者が65歳になるまで続くので、年齢差が大きいほど受け取る期間が長い。事実婚でも生計を同じくしていると認められれば対象になりうる
- 遺族厚生年金。婚姻届があれば手続きは進めやすい。事実婚でも請求はできるが、夫婦としての共同生活があったことと、生計を維持されていたことを立証する必要があり、通るとは限らない
- 制度は移行期にある。2028年4月から、子のいない配偶者への遺族厚生年金は原則5年の有期給付に変わる。女性については段階的で、当面は年齢の高い層が対象外に置かれる。あわせて、40歳から65歳の妻に支給されてきた中高齢寡婦加算が、長い時間をかけて段階的に廃止される
自分たちの生年月日で結論が変わるので、年金事務所に二人の年齢を伝えて試算してもらうのが確実になる。予約すれば無料で相談できる。
介護と看取りの話を、元気なうちに一度だけ
65歳の男性の平均余命はおよそ19年。85歳前後までを一緒に過ごす前提で考えると、四十代の女性が六十代に入る頃に、介護の局面が来る計算になる。
重いのは介護そのものより、決める権限がないことだ。事実婚のままだと、病院で治療方針の説明を受けられないことがある。任意後見契約を結んでおく、延命についての意向を書き残しておく、緊急連絡先に名前を入れておく。この三つを済ませておけば、いざというときに部屋の外で待たされずに済む。
家族にどう伝えるか
子ども世代が本当に心配していること
反対の理由を年齢だと思っていると、話が噛み合わない。子ども世代が実際に恐れているのは、たいてい次のどれかになる。
- 財産が親族の外に出ること
- 親の介護を、この人が本当にやるのか。それとも自分たちに戻ってくるのか
- 亡くなった母親の記憶をどう扱うつもりなのか
三つとも、感情ではなく段取りの話だ。だから、感情で説得しようとすると失敗する。
先の六十二歳と四十三歳のカップルは、子どもたちの反応を心配していた。ところが実際には柔軟で、おばあちゃんみたいで安心する、と言われたという。子ども本人と、その親である配偶者は、心配している中身が違う。
伝える順番を間違えない
- 相手の子どもより先に、自分の子どもに話す
- 結婚するかどうかを決める前に会わせない。決めてから会わせる
- 初回に相続と介護の話をしない。関係を認めてもらう回と、条件を詰める回を分ける
- 二回目以降で、遺言や後見の準備を進めていると自分から伝える。聞かれる前に言うのが要点になる
- 反対されても即答を求めない。半年から一年かけて、会う回数を増やす
段取りを先に示す人には、反対しにくい。逆に、決まっていないまま紹介すると、子ども世代は最悪の想定で身構える。
続いている二人に共通していること
長く続いているカップルは、年齢差を消そうとしていない。無理に同世代のふるまいに合わせず、違いとして扱っている。
女性が仕事で多忙を極める時期に、男性が家事を引き受けてバランスを取った家がある。時間のある側が時間を出し、稼げる側が稼ぐ。役割を年齢や性別ではなく、その時点の余力で割り振っている。
体力差は必ずある。遠くへドライブに行く習慣を持つカップルも、運転を交代し、休憩を増やし、行き先を変えている。一緒にいる時間が心地よい、と彼女は言った。心地よさは相性から自然に出てくるものではなく、二人が合わせにいった結果として残るものだ。
年齢差のある関係で試されるのは、愛情の強さより、調整をやめない根気のほうになる。二十歳の差は最後まで縮まらないが、生活のほうは毎年つくり直せる。
Q. 60代男性と40代女性の恋愛はうまくいくのですか
続いているカップルはあります。別れた人が挙げる理由は年齢差そのものではなく、生活リズムのずれと周囲の反対であることが多く、どちらも調整できる問題です。年齢差を原因にしてしまうと打つ手がなくなるため、何がずれているのかを具体的に切り分けることが分かれ目になります。
Q. 60代男性と40代女性はどこで出会っているのですか
趣味のサークル、マッチングアプリ、共通の友人の紹介がほとんどです。職場での出会いはほぼ聞きません。年齢差のある二人が対等に長時間過ごせる場が、仕事の外にしかないためです。
Q. 結婚と事実婚では何が違いますか
いちばん大きいのは相続権です。婚姻届を出していない相手には法律上の相続権がなく、何十年同居していても財産は本人の子や親族に渡ります。公正証書遺言を作れば財産を渡せますが、子どもの遺留分は残ります。
Q. 事実婚でも遺族年金は受け取れますか
請求はできますが、必ず受け取れるわけではありません。夫婦としての共同生活があったことと、生計を維持されていたことを日本年金機構に認めてもらう必要があり、証明の負担は重くなります。婚姻届がある場合と比べて手続きの見通しは立ちにくくなります。
Q. 年齢差が大きいと年金で有利になることはありますか
加給年金があります。厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を同じくする65歳未満の配偶者がいると年40万円ほどが上乗せされ、配偶者が65歳になるまで続きます。年齢差が大きいほど受け取る期間が長くなるため、二人の生年月日を持って年金事務所で試算してもらうと具体的な金額が分かります。
Q. 相手の子どもに反対されたらどうすればいいですか
反対の中身を確かめてください。年齢そのものではなく、財産の行き先、介護を誰が担うのか、亡くなった配偶者の扱いを心配していることがほとんどです。遺言や後見の準備を進めていると自分から先に伝えると、話の性質が感情から段取りに変わります。
Q. 介護が必要になったときのために準備できることはありますか
任意後見契約を結ぶ、延命や治療についての意向を書面にしておく、病院の緊急連絡先に名前を入れておく。この三つがあると、事実婚でも治療方針の説明を受けられずに待たされる事態を避けやすくなります。元気なうちにしか結べない契約が含まれるため、先送りするほど選択肢が減ります。
Q. 財産目的だと疑われたときはどうすればいいですか
疑いを言葉で否定するより、書類で先に示すほうが早く収まります。婚前契約や遺言で財産の行き先をはっきりさせ、相手の子どもにその内容を共有しておく方法があります。取り分を主張していないことが文書で見えると、警戒は数か月で薄れていきます。

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