九十歳を目前にした父が、更新の手続きに向かった。家族はもう返納したほうがいいと何度も勧めていたが、本人はまだ運転できると譲らない。認知機能検査では、今年が何年かを問われて一瞬答えに詰まったという。運転の確認でも、一時停止で止まれない場面があった。それでも合格ラインをクリアして、更新できた。有効期間は三年だった。
これでまた三年運転できる、と父は安心した顔をしていた。家族の側は複雑だった。
90歳で更新した免許の有効期間は3年になる。ただし、その3年は安全が保証された3年ではなく、次に国が確認するまでの間隔でしかない。ここを取り違えると、家族は次の更新までの三年間を、ただ待つだけの時間にしてしまう。
90歳の免許更新は3年
71歳以上は一律3年になる
免許証の有効期間は、更新のときの年齢で決まる。
- 69歳以下は原則5年
- 70歳は4年
- 71歳以上は一律3年
無事故無違反のゴールド免許であっても、71歳を超えれば3年になる。90歳でも95歳でも、この3年は変わらない。免許証の帯の色は金色のままで期間だけが短くなるので、5年のつもりでいて期限を過ぎかける人がいる。
年齢に上限はない。決めているのは検査
免許更新に年齢の上限はない。100歳でも、条件を満たせば更新できる。
田舎に住む九十歳の男性は、無事に更新を済ませた。九十歳で更新する人がいるのかと驚かれたそうだが、近くに公共交通機関がほとんどなく、買い物も病院も車が前提の地域だった。家族は心配しながらも、代わりの足がない以上、止める言葉を持てなかった。
年齢そのものは免許を止めない。止めるのは検査の結果か、本人の判断のどちらかになる。
3年後に何歳になるかを先に書いておく
家族に勧めたいのは、更新が終わった日に、次の満了日と、そのとき本人が何歳になっているかを紙に書いておくことだ。90歳で更新したなら、次は93歳の更新になる。
この一行があるだけで、話し合いの前提が変わる。今やめるかどうかではなく、93歳まで運転を続ける前提で家の生活をどう組むか、という問いに置き換わるからだ。
90歳の更新で何をするのか
更新期間は、有効期間が満了する直前の誕生日の1か月前から、満了日までの約2か月間。案内のはがきは満了のおよそ半年前に届き、講習と検査はその通知が来てから予約する。
90歳の場合、必要になるのは次のものになる。
- 認知機能検査。75歳以上は全員
- 高齢者講習。70歳以上は全員
- 運転技能検査。75歳以上で一定の違反歴がある人だけ
認知機能検査
内容は二つある。16種類の絵を見て記憶し、何が描かれていたかを答えるもの。そして検査日の年月日と曜日、時刻を答えるもの。
父が詰まったのは後者だった。今年が何年か、という問いは、日付を意識せずに暮らしていると意外に出てこない。カレンダーを見ない生活が長いほど落としやすい。
判定は合否ではなく二つに分かれる。総合点が36点以上なら認知症のおそれなし、36点未満なら認知症のおそれあり。手数料は千円ほどで、所要時間は30分程度になる。
高齢者講習と実車の指導
講習は2時間ほど。座学と適性検査に加えて、教習所のコースを実際に運転する実車指導が入る。シミュレーターを使う場面もあり、普段の感覚と違うせいでヒヤリハットが続いた、という声はよく聞く。
実車指導そのものに合否はない。指導員が助言をして終わる。ここで家族が知りたい情報が出ることがあるので、送迎した人は終わった後に本人へ何を言われたかを聞いておくといい。
運転技能検査の対象になる人
過去3年間に信号無視や速度超過など決められた種類の違反歴がある75歳以上は、運転技能検査を受けなければ更新できない。対象かどうかは、届いたはがきに書かれている。
コースを実際に走り、指示速度での走行、一時停止、右左折、信号通過、段差の乗り上げが課題になる。普通免許なら70点以上で合格になる。
検査に引っかかったらどうなるか
認知症のおそれありは、その場の取り消しではない
36点未満と判定されても、その場で免許が取り消されたり停止されたりすることはない。次に進むのは、専門医の診断を受ける臨時適性検査か、診断書を提出する手続きになる。医師が認知症でないと判断すれば、そのまま講習を受けて更新できる。
認知機能検査そのものは、何度でも受け直せる。再検査でおそれなしと判定されれば、医師の診断は不要になる。
検査の結果を受けて返納を選んだ九十歳の人がいた。ショックは大きかったそうだが、周りに迷惑をかけたくないと言って決めた。その後は免許のいらない特定小型の乗り物を買い、近所の移動はそれで済ませている。自由が少し狭まった寂しさはあるが、事故を起こすよりましだと家族も話していた。
運転技能検査は期限まで何度でも受けられる
一度落ちても終わりではない。更新期間の満了日までなら、何度でも受け直せる。手数料は毎回かかる。
一時停止を守れずに不合格になった女性は、買い物と病院に絶対に必要だと言って何度も挑戦した。合格する人もいれば、期限までに届かず返納になる人もいる。
家族の立場からすると、この再受検の仕組みは複雑に映る。落ちたという事実が一度出ているのに、通るまで受け直せてしまうからだ。ここで家族が使えるのが、次に書く仕組みになる。
泣きながら返納を選んだ人が見ていたもの
八十八歳で更新を迎えた祖母は、泣きながら返納を選んだ。毎日通っていた喫茶店のモーニングも、畑仕事も、車がなければ難しくなる。自由を奪われた、と冗談めかして嘆いていたという。
決め手は、家族が同乗したときに運転が乱暴になっていると自分でも気づいたことだった。返納後は息子が送迎しているが、もう少し運転したかった、という言葉は繰り返し出てくる。
返納は安全を買う代わりに、生活の張りを一つ手放す取引になる。ここを軽く見て説得すると、話は必ずこじれる。
更新できた3年は、安全が保証された3年ではない
合格ラインと家族の実感はずれる
父は一時停止で止まれない場面がありながら、更新できた。この二つは矛盾していない。検査は最低限の線を引いているだけで、家族が日々見ている危うさを拾う設計にはなっていないからだ。
耳が遠くなり、行きたい場所の名前すら正確に出てこなくなっているのに運転をやめない、という状態を、検査は捕まえられないことがある。更新できたことを、運転を続けていい根拠として本人が使い始めるところに、この問題の厄介さがある。
3年を待たずに動ける仕組み
次の更新まで何もできないわけではない。
- 安全運転相談窓口。全国共通の短縮ダイヤル8080で、警察の担当者に家族から相談できる。本人を連れて行かなくても話を聞いてもらえる
- 臨時認知機能検査。75歳以上が信号無視などの特定の違反をすると、更新の時期に関係なく検査が行われる
- 医師からの届出。認知症と診断された場合、医師が公安委員会に届け出る制度がある。かかりつけ医に運転の状況を伝えておく意味はここにある
- サポートカー限定免許。安全機能のついた車に限って運転できる免許で、更新や切り替えのときに申請できる。全部をやめるより本人が受け入れやすい
車を勝手に処分すると何が起きるか
父親が九十歳近くになっても更新を続けることに不安を募らせた息子が、最終的に車を勝手に売却した例がある。父親は激怒した。
気持ちは分かるが、本人名義の車を無断で処分すれば、法的にも家族関係の面でも後が重くなる。相談を持ちかけていた相手が敵になり、以後の説得が通らなくなる。同じ効果を狙うなら、鍵の保管場所を変える、任意保険の運転者の範囲を見直す、車検を通す時期に一度話し合うといった手順を踏むほうが後始末が軽い。
返納を切り出すときの順番
免許の話より先に、足の話をする
危ないからやめてほしい、から入ると必ず反発が返る。奪う話として届くからだ。
先に足を用意する。週に何回、どこへ行く必要があるのかを本人と一緒に書き出し、その一つひとつに代わりの手段を当てていく。買い物は宅配、病院は介護タクシーか家族の送迎、喫茶店だけは自分で行きたいならそこをどう残すか。手段が埋まってから免許の話をすると、会話の中身がまるで変わる。
返納ではなく回数から減らす
全部やめるか続けるかの二択にしない。夜は乗らない、雨の日は乗らない、幹線道路は使わない、片道何分以内にとどめる。こうした条件を一つずつ足していくほうが、本人も飲みやすい。
同乗したときに運転が変わったと感じたなら、その場で指摘せず、後日に一つだけ提案する。指摘は否定として届き、提案は相談として届く。
返納後の移動手段
返納の手続きは、警察署か運転免許センターで申請による運転免許の取消しとして行う。同時に運転経歴証明書を申請しておくと、身分証明書として使えるうえ、地域によってはバスやタクシーの割引を受けられる。
免許がいらない移動手段も増えた。特定小型原動機付自転車は16歳以上なら免許なしで乗れる。地域によっては、予約制で走るデマンド交通や、高齢者向けのタクシー券がある。自治体の高齢福祉の窓口に聞くのが早い。
九十歳での更新は、書類上は3年の延長にすぎない。実際に決まっているのは、その3年をどう使うかのほうだ。更新できた日は、話し合いが終わった日ではなく、次の期限が見えた日になる。
Q. 90歳で免許を更新すると有効期間は何年ですか
3年です。更新時の年齢が71歳以上なら、ゴールド免許でも一律3年になります。70歳での更新は4年、69歳以下は原則5年で、90歳を含む高齢層は年齢が上がっても3年より短くなることはありません。
Q. 免許更新に年齢の上限はありますか
ありません。100歳でも、必要な検査と講習を終えれば更新できます。更新の可否を決めているのは年齢そのものではなく、認知機能検査の判定と、対象者であれば運転技能検査の結果です。
Q. 90歳の更新ではどんな検査を受けますか
75歳以上に必須の認知機能検査と、70歳以上に必須の高齢者講習を受けます。加えて、過去3年間に信号無視などの特定の違反歴がある人は運転技能検査が必要です。対象かどうかは、更新のお知らせのはがきに記載されています。
Q. 認知機能検査で認知症のおそれありと判定されたらどうなりますか
その場で免許が取り消されることはありません。総合点36点未満の場合、専門医の診断を受けるか診断書を提出することになり、認知症でないと判断されれば更新に進めます。検査自体は何度でも受け直せます。
Q. 運転技能検査に落ちたら再受検できますか
更新期間の満了日までなら、何度でも受け直せます。手数料は受検のたびにかかります。期限までに合格しなければ更新はできず、返納か失効という形になります。
Q. 更新できてしまったあと、家族にできることはありますか
次の更新を待つ必要はありません。警察の安全運転相談窓口は全国共通の短縮ダイヤル8080で、本人を連れて行かなくても家族から相談できます。かかりつけ医に運転の状況を伝えておくことや、サポートカー限定免許への切り替えを提案する方法もあります。
Q. 家族が本人の車を勝手に処分してもいいですか
本人名義の車を無断で売却すれば、法的な問題に加えて信頼関係が壊れ、その後の説得が通らなくなります。鍵の保管場所を変える、任意保険の運転者の範囲を見直す、車検の時期に合わせて話し合うなど、手順を踏む方法を先に検討してください。
Q. 免許を返納したあとの移動手段はどうすればいいですか
返納時に運転経歴証明書を申請すると、身分証明書として使えるほか、地域によってバスやタクシーの割引が受けられます。免許のいらない特定小型原動機付自転車は16歳以上なら利用でき、予約制のデマンド交通やタクシー券を用意している自治体もあります。高齢福祉の窓口で確認するのが早道です。

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