祖父が亡くなったとき、妹は葬式には行かないと言い切った。余命宣告から数週間しかなかったのに、もう関わりたくないと繰り返した。子どもの頃、怒鳴られ、理不尽なことを言われた記憶が今も残っているという。孫なのに流石にどうなの、と私は戸惑った。それでも妹の決意は固く、通夜にも告別式にも顔を出さなかった。親戚からは薄情だと陰口を叩かれた。何年経っても、妹は後悔はないと言う。
孫が祖父母の葬式に行かないことに、破っている決まりはない。参列を強制する法律はなく、宗派の作法にも孫は必ず出席と書かれてはいない。行かない選択そのものは、誰にも咎められる筋合いのないものになる。
苦しいのは、決まりを破ったからではない。行かない理由を、納得しない人たちに説明させられるからだ。以下、欠席の理由ごとの考え方と、後悔した人としなかった人を分けたもの、そして伝え方と香典の扱いまで具体的に書く。
孫が葬式に行かなくても、破っている決まりはない
参列義務は法律にも作法にもない
喪主が誰を呼ぶかを決め、呼ばれた側が行くかどうかを決める。葬儀はその繰り返しでできている。孫だから必ず、という規則はどこにも存在しない。
会社の忌引きも同じで、孫は取れる場合と取れない場合がある。就業規則で祖父母は一日程度と定めている会社が多く、そもそも制度上、孫の参列は絶対視されていない。遠方なら移動だけで足りなくなる日数だ。
義務がない以上、行かない判断は非常識ではなく、選択になる。
それでも苦しいのは、行かない理由を説明させられるから
妹の場合、決めること自体は早かった。しんどかったのはその後だ。なぜ来ないのか、何があったのか、親戚の誰かが必ず聞いてくる。答えれば家族の古い傷を掘り返すことになり、答えなければ薄情な孫として片づけられる。
ここに、この問題の本当の重さがある。行かないと決めた人の多くは、決断ではなく説明責任に消耗している。だから先に言っておく。理由を全員に説明する義務も、納得してもらう義務もない。伝える相手は一人で足りる。
行かない理由に、順位はつけられない
欠席の理由を並べたとき、世間はなんとなく順位をつける。仕事なら仕方ない、感情的な理由は身勝手、といった具合に。この順位づけには根拠がない。
- 過去に傷つけられた
- 仕事や学校の予定が動かせない
- 遠方で移動時間と費用の負担が大きい
- 体調が悪い、精神的に立っていられない
- 小さい子どもがいて連れて行けない
- そもそも呼ばれていない
どれも、その人にとっては動かせない事情になる。
過去に傷つけられている場合
祖母の葬儀に行くかどうかで何年も悩んでいた女性がいた。連絡を絶っていた期間が長く、顔を合わせることを想像するだけで動悸がした。最後は、参加したい人だけ参加すればいいと自分に言い聞かせ、欠席を選んだ。冷たい孫だと思われるかもしれないが、自分の心を守った、と彼女は言った。
父方の祖母と正式に縁を切り、相続の放棄まで決めていた男性もいる。母親が絶縁していた影響が大きく、孫である自分も関わりたくないという思いが強かった。その日が来ても、彼は行かなかった。
この層の人が検索する言葉には、たいてい非常識や薄情が混じる。世間の言葉を自分に向けてしまうからだ。ただ、傷つけられた側が場を整える側に回る義理はない。行かないことで誰かの人生が壊れるわけでもない。
葬儀は、故人を悼みたい人が悼む場所になる。悼めない気持ちを抱えたまま座っていることのほうが、その場所には合わない。
仕事や学校が理由の場合
遠方に住む孫が、シフトを外せずに祖母の葬儀を欠席した例がある。親からは無理しなくていいと言われていた。
告別式の日が大事なテストと重なり、学校に行きたいと申し出た中学生の話も聞いた。親は孫なんだからと説得したが、本人の意思は変わらず、結局行かなかった。
仕事や学校を理由にすることを、逃げの口実だと感じている人がいる。ただ、動かせない予定を動かせないと言うのは事実の報告でしかない。むしろ危ういのは、周囲がその理由を軽く見て、無理に行かせるほうだ。
距離や体調、小さい子どもがいる場合
新幹線と宿で数万円が飛び、往復に二日かかる。喪服がない。妊娠中や産後で体が動かない。持病があって長時間の正座に耐えられない。これらは口に出しにくいぶん、行かない理由として軽く扱われやすい。
幼い子を連れて行くかで揉める家庭も多い。一歳や二歳の子は泣くし動き回るから迷惑になるという意見と、故人に孫の顔を見せてあげたいという意見がぶつかる。結果として、無理に連れて行かず親ごと欠席する選択をする人も少なくない。
そもそも呼ばれなかった場合
家族葬が増えて、喪主が配偶者と子どもだけでいいと決めることがある。この場合、孫まで呼ばないという判断は珍しくない。
呼ばれなかった孫の中には、同じ立場のいとこは呼ばれたのに、と不公平を感じる人がいる。ここで傷つくのは自然なことだ。ただ、家族葬の線引きは同居していたか、連絡先を喪主が把握していたか、会場の広さがどうか、といった事務的な事情で決まることが多い。あなたへの評価が理由とは限らない。
呼ばれなかったなら、行かないことに理由づけは要らない。後日、線香をあげに行きたいと伝えれば足りる。
後悔した人としなかった人を分けたもの
分かれ目は関係の濃さではなく、言い残しがあるかどうか
シフトを外せず欠席した孫は、後からやっぱり行けばよかったと悔やむようになった。棺の前で最後の顔を見て、ありがとうと言いたかった、と。
同じように仕事を優先して欠席し、特に後悔していない孫もいる。長年ほとんど会っていなかったから、気持ちが追いつかなかったのだそうだ。
二人の違いは、故人との関係が濃いか薄いかではない。渡し損ねた言葉が自分の中に残っていたかどうかだ。ありがとうを言いたかった人には、渡す場所が必要だった。気持ちが追いつかなかった人には、渡すものがなかった。
これを言い残しの有無と呼んでいる。後悔は、行かなかったこと自体からは生まれない。渡すつもりだったものが手元に残ったときに生まれる。
決める前に自分に一つだけ確かめる質問
迷って動けない人は、この一問だけ自分に向けてほしい。
あの人に、まだ言っていない言葉があるか。
あると答えるなら、多少無理をしてでも行ったほうがいい。通夜だけ、火葬場に間に合わなくてもいい。渡す場所が要る。
ないと答えるなら、行かなくていい。世間体や親戚の目のために座っている時間は、あなたの中に何も残さない。
思い浮かぶのが感謝ではなく怒りや恨みだったなら、それは葬儀の場で渡すものではない。別の場所と別の時間をかけて処理していく類のものになる。
欠席すると決めたあと、やること
誰に、いつ、どう伝えるか
- 伝える相手は喪主か、自分の親の一人に絞る。親戚全員に説明しない
- 訃報を受けたら、当日か翌日までに伝える。返事を保留したまま日を跨がない
- 理由は一つだけ、短く言う。並べるほど言い訳に聞こえる
- お悔やみの言葉を先に置き、欠席を後に置く。順番だけで印象が変わる
- 香典や弔電をどうするかを、同じ連絡の中で伝える
伝える手段は電話でも文字でもかまわない。声を出すのが辛い相手なら、文字のほうが結果的に丁寧なものが書ける。
そのまま使える伝え方の型
理由を詳しく書かない短さが、かえって角を立てない。
仕事で動かせないとき。このたびはご愁傷様です。当日どうしても外せない仕事があり、伺うことができません。香典は母に預けます。
体調や事情を言いたくないとき。このたびはご愁傷様です。事情があり参列できません。落ち着いた頃に、あらためてお参りさせてください。
過去のことがあるとき。このたびはご愁傷様です。考えた末に、参列は控えることにしました。ご迷惑をおかけします。
考えた末に、という一言が効く。逃げたのではなく決めたのだと伝わり、それ以上の追及が来にくくなる。
香典と弔電をどう扱うか
妹は通夜にも告別式にも行かなかったが、香典だけは親を通じて渡した。この形は覚えておく価値がある。行かないことと、何も出さないことは別に決められる。
- 孫の立場での香典は一万円前後が目安。学生や二十代前半なら五千円でも問題ない
- 親と同居しているなら、親の香典に含めてもらってかまわない
- 現金書留で斎場か自宅に送ることもできる。その場合は一筆添える
- 弔電は告別式の前日までに斎場宛てで届くよう手配する
- 出さないと決めるのも選択肢になる。縁を切った相手なら、無理に体裁を整える必要はない
香典を出す目的が、自分の気持ちなのか親の立場を守るためなのかは、はっきりさせておくといい。後者なら親に一度確認する。親戚の中で親が矢面に立つかどうかは、その一言で変わる。
行かなかった後に効いてくる手当て
後日、自分のタイミングで手を合わせる
葬儀に行かなかったことは、故人と二度と向き合えないことを意味しない。四十九日を過ぎた頃に自宅へ線香をあげに行く、法要には出ずに墓だけ参る、遠方なら手紙を送る。人の少ない時間を選べば、動悸のする相手と顔を合わせずに済む。
行かなくてよかったと思っている人は、無理に何かをしなくていい。ただ、言い残しがあると気づいたのに葬儀に間に合わなかった人は、この後日の一回で気持ちが落ち着くことが多い。
親戚の陰口と、親との関係をどう扱うか
妹は薄情だと言われた。この種の言葉は防げない。防げないものを防ごうとして説明を重ねると、かえって話が広がる。
構え方は二つ。一つは、言われるものだと最初から見積もっておくこと。もう一つは、窓口を親一人に絞ること。あなたが誰とも直接やり取りしなければ、話は数か月で止まる。
難しいのは親との関係のほうだ。子どもの気持ちを尊重してよかったと割り切る親もいれば、あのときの選択でよかったのかと後から悩む親もいる。親には、行かない理由を一度だけ丁寧に話しておく。ほかの誰にも説明しなくていい代わりに、親にだけは伝えておく。この一回が、その後の何年かを軽くする。
子どもや孫を連れて行くか迷う親へ
小さい子を連れて行くかどうかに正解はない。判断材料だけ置いておく。
- 一歳から三歳ごろは、泣き声や動き回ることを前提に、途中退席できる席を確保しておく
- 別室で待てる斎場かどうかを事前に確認する。難しければ片方の親だけ参列する
- 学齢期の子には、行くかどうかを一度本人に聞く。行きたくないと言うなら理由を掘り下げない
- 中高生の試験や大会と重なった場合、本人の判断を優先しても後々こじれにくい
故人に孫の顔を見せたいという気持ちは、葬儀の場でなくても叶う。後日、写真を持って墓前に行けばいい。
行くと決めた人も、行かないと決めた人も、決めた瞬間はたいてい一人だ。誰にも褒められない選択を自分で引き受けたなら、それはもう非常識ではなく、あなたの弔い方になる。
Q. 孫が祖父母の葬式に行かないのは非常識ですか
非常識ではありません。孫の参列を義務づける法律も宗派の決まりもなく、誰を呼ぶかは喪主が、行くかどうかは本人が決めるものです。行かない理由を親戚全員に説明する義務もありません。
Q. 仕事や学校を理由に葬式を欠席してもいいですか
かまいません。孫の忌引きは会社の就業規則によって一日程度か、そもそも対象外のことも多く、制度上も孫の参列は絶対視されていません。動かせない予定を動かせないと伝えるのは、言い訳ではなく事実の共有です。
Q. 葬式に行かない場合、香典はいくら包めばいいですか
孫の立場なら一万円前後が目安で、学生や二十代前半なら五千円でも問題ありません。親に預ける、現金書留で送る、親の香典に含めてもらうといった方法があります。縁を切った相手なら出さない選択もできます。
Q. 欠席することを誰にどう伝えればいいですか
喪主か自分の親、どちらか一人に絞って伝えてください。訃報を受けた当日か翌日までに、お悔やみの言葉を先に置き、理由は一つだけ短く添えます。考えた末に参列は控えます、という言い方が最も追及されにくくなります。
Q. 家族葬で呼ばれなかった場合はどうすればいいですか
行かなくてかまいません。家族葬の線引きは会場の広さや連絡先の把握状況といった事務的な事情で決まることが多く、あなたへの評価とは限りません。気になるなら、後日お参りさせてくださいと一言伝えておけば十分です。
Q. 絶縁している祖父母の葬式に行く義務はありますか
ありません。参列と相続はまったく別の手続きで、葬儀に出なかったことで相続権が消えることも、出たことで放棄の意思が覆ることもありません。顔を合わせるだけで体調に出るような相手なら、欠席を選んでかまいません。
Q. 葬式に行かなかったことを後悔しないためにできることはありますか
まだ言っていない言葉があるかを自分に確かめてください。あるなら通夜だけでも行ったほうがよく、ないなら行かなくても後悔は残りにくい傾向があります。後から気づいた場合は、四十九日を過ぎた頃に自宅や墓へ手を合わせに行くと落ち着きます。
Q. 小さい子どもを葬儀に連れて行くべきですか
決まりはありません。途中退席できる席や別室が使えるかを事前に確認し、難しければ片方の親だけ参列する形で問題ありません。故人に孫の顔を見せたいなら、後日写真を持って墓前に行く方法もあります。

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