母親が免許を更新して運転を再開したあと、念のため調べてみた。高齢者マークは75歳からだと思い込んでいたのに、実際は70歳からだった。母はとっくに超えているのに、これまで一度も付けていなかった。
そう気づいて焦った人がいる。ただ、努力義務なので罰則はないと分かり、ひとまず胸をなでおろしたという。
高齢者マークは70歳からが目安になる。ただし義務ではなく努力義務で、付けていなくても違反にはならない。
年齢ごとの扱いを並べると、こうなる。
- 70歳未満 対象外
- 70歳以上75歳未満 加齢による身体機能の低下が運転に影響するおそれがあるときの努力義務
- 75歳以上 条件を問わず対象。ただしこちらも現在は努力義務で罰則なし
高齢者マークは70歳から
70歳から74歳は条件つき、75歳からは条件なし
正式名称は高齢運転者標識になる。もみじマーク、四つ葉マーク、シルバーマークと呼ばれることもあるが、指しているものは同じだ。
70歳から74歳までは、加齢に伴って生じる身体機能の低下が運転に影響を及ぼすおそれがあるとき、という条件がついている。視力や聴力の低下、反応の遅れといった自覚のある人が対象になる。
75歳以上になると、この条件が外れる。身体の状態を問わず、全員が対象として扱われる。
つまり、70歳を過ぎたら自分で判断し、75歳を過ぎたら判断の余地がなくなる、という二段構えになっている。
付けなくても罰則はない
どちらの年齢でも、付けていないことへの罰則や違反点数はない。表示するかどうかは運転者本人の判断に任されている。
一方で、付けたときには効力が生じる。マークを表示した普通自動車に対して、危険防止のためやむを得ない場合を除き、幅寄せや割込みをすることは道路交通法で禁じられている。違反した側には5万円以下の罰金、普通自動車の反則金6,000円、基礎点数1点が科される。
付ける側に義務はなく、周囲の側に義務が生じる。この非対称が、この標識の設計になっている。
なぜ75歳だと思っている人が多いのか
過去に75歳で義務だった時期がある
紅葉マークは74歳までが努力義務で、75歳からは表示義務だった。そう記憶している人は多い。記憶違いではない。
制度の変遷を追うと、こうなる。
- 1997年10月30日 75歳以上を対象とした努力義務として導入
- 2002年6月1日 努力義務の対象が75歳以上から70歳以上へ引き下げられる
- 2008年6月1日 改正道路交通法の施行により、75歳以上の表示が罰則付きで義務化される
- 2009年4月24日 改正法により、75歳以上の表示義務の規定は当分の間適用しないとされ即日施行
- 2011年2月1日 デザインが四つ葉のクローバーを模したものへ変更
義務だった期間は、2008年6月から翌年4月までの11か月に満たない長さになる。年齢で線を引くことへの反発が強く、当時のデザインが枯れ葉を連想させるという批判も重なって、短期間で撤回された。
条文はいまも残ったまま眠っている
ややこしいのは、義務の条文そのものは消えていないことだ。
道路交通法第71条の5は、第2項で75歳以上の表示義務を、第3項で70歳から74歳の努力義務を定めている。第2項は義務として書かれたまま残っていて、止まっているのはその適用だけになる。根拠は道路交通法の附則第22条で、当分の間適用しないと定めている。
だから、75歳以上は義務という説明も、努力義務という説明も、どちらも間違いではない。前者は条文を、後者は現在の運用を見ている。もし附則が削除されれば、違反点数1点、反則金4,000円が復活する。
運転をめぐる年齢の基準は揃っていない
65歳、70歳、75歳はそれぞれ別の目的で引かれた線
高齢ドライバーと呼ばれる基準は65歳以上なのに、マークを付ける基準は70歳以上になっている。この不一致に苛立つ人は多い。何もかも統一してくれ、という声が出る。
理由は単純で、それぞれの線が別の制度で、別の目的のために引かれているからだ。
65歳という数字は、統計や医療、雇用の分野で使われている。医療制度でいえば65歳から74歳が前期高齢者、75歳以上が後期高齢者になる。交通事故の統計で高齢運転者が65歳以上とされているのも、この一般的な区分に合わせたものになる。
一方、70歳と75歳は運転能力に着目して引かれた線になる。この年齢を境に、視力や判断の速度に統計的な変化が現れることを踏まえて設定されている。統計上の高齢者と、運転上の高齢者は、別の物差しで測られている。
運転に関わる年齢を一枚に並べる
混乱を避けるために、運転に関わる年齢だけを並べておく。
- 65歳以上 交通事故の統計などで高齢運転者として集計される区分
- 70歳以上 高齢者マークの努力義務が始まる。免許更新時に高齢者講習が必要になる
- 70歳 免許証の有効期間が5年から4年に短縮される
- 71歳以上 有効期間が一律3年になる。ゴールド免許でも短縮される
- 75歳以上 認知機能検査が必要になる。マークの対象条件が外れる
- 75歳以上で過去3年間に一定の違反歴がある場合 運転技能検査が加わり、合格しないと更新できない
高齢者講習は、更新期間が満了する日の6か月前ごろに通知が届く。運転適性検査と講義に実車の指導を加えた内容で、受講しなければ更新の手続きに進めない。予約が取りにくい地域もあるので、通知が来たら早めに動く。
75歳の認知機能検査は、記憶力と時間の見当識を確認する簡易なもので、医学的な診断ではない。
こうして並べると、70歳がひとつの節目になっていることが分かる。マークだけが単独で存在しているのではなく、更新の間隔が短くなり、講習が加わるのと同じタイミングで来ている。
70歳になると使えるようになる制度
年寄り扱いされたくないからマークは付けないのに、思いやり駐車のスペースを使うときだけ年齢を理由にする。そういう矛盾を指摘する声がある。
ここで知っておきたいのは、70歳という基準に紐づいた駐車の制度が、道路交通法の側にも用意されていることだ。
高齢運転者等専用駐車区間
2010年4月から始まった制度で、官公庁、病院、郵便局といった施設の周辺の道路に、対象者だけが駐車できる区間が設けられている。
対象になるのは、普通自動車対応免許を持つ人のうち、70歳以上の運転者、聴覚障害を理由に免許に条件を付されている運転者、肢体不自由を理由に条件を付されている運転者、妊娠中または出産後8週間以内の運転者になる。70歳以上という条件は、高齢者マークの対象者と同じ範囲になっている。
交付を受けた高齢運転者等標章を車の前面に掲示すれば、通常は駐停車が禁止されている場所でも、指定された区間に駐車できる。パーキングメーターやパーキングチケットの設置区間にも、専用として指定された部分がある。
標章は全国の専用駐車区間で使えるが、区間そのものが設置されていない県もある。使う予定の地域に設置があるかは、先に確認しておく。
申請の手順
手続きは難しくない。
- 住所地を管轄する警察署の交通課に申請する
- 必要なものは申請書、運転免許証、自動車検査証
- 本人以外に、配偶者や三親等以内の親族が代理で申請できる
- 標章に有効期限はない。妊娠中と出産後の人だけ期限がある
- 免許が失効したときなどは、標章を返納する
すでに歩行が困難であることを理由に駐車禁止等除外標章の交付を受けている人は、そちらを掲示すれば足りるので、改めて申請する必要はない。
マークを付けるかどうかで迷っている人にとって、70歳という年齢が制限だけでなく支援にもつながっていると知ることは、判断の材料になる。
付けるか付けないかを分けているもの
年寄り扱いへの抵抗
制度の説明よりも、実際の判断を左右しているのはこちらになる。
歳をとったらちゃんと高齢者マークを車に付けてね、僕が買って渡すから。そんなふうに子どもから冗談めかして言われる家庭がある。言う側は軽い調子でも、言われた側は年齢を数えられたと受け取る。
抵抗の中身は二つに分かれる。自分がその段階に入ったと認めることへの抵抗と、周囲から向けられる視線への警戒だ。後者は実際に存在するので、気のせいだと片付けられない。
付けた側に生じる保護
ただ、実利の面では釣り合いが取れている。マークを付けた車に幅寄せや割込みをすれば、した側が違反になる。1点と反則金が科され、ゴールド免許なら次回の更新で色が変わる。
守られる範囲は、視線の不快さより広い。家族に勧めるときも、危ないから付けてほしいと言うより、周りに配慮してもらうために付けてほしいと伝えるほうが通りやすい。
一方で、付けているからといって何をしても許されるわけではない。対向車が来ているのに追い越しをかけて事故になりかけた例や、ゆっくり走っていたのに突然ペースを上げる車を見た人がいる。マークは配慮を求める合図であって、運転の安全を保証するものではない。
75歳を区切りに決めた人
田舎で車がないと不便だと分かったうえで、75歳を機に免許を返納した父親がいる。ここを逃したら区切りがなくなる、何か起こってからでは遅い。そう言って自分で決めたという。
75歳は、認知機能検査が加わり、違反歴によっては運転技能検査まで課される年齢になる。手続きが重くなるぶん、立ち止まって考える機会にもなる。
返納までの中間に、選択肢も用意されている。運転できる車を安全機能付きのものに限定するサポートカー限定免許は、申請によって切り替えられる。返納すれば運転経歴証明書が交付され、身分証明として使えるほか、自治体や事業者による特典を受けられる地域もある。
マークを付けるかどうかは70歳の問いで、運転を続けるかどうかは75歳の問いになる。順番に来るので、まとめて考えなくていい。ただ、どちらも先に一度考えておいた人のほうが、迫られてから決める人より穏やかに済んでいる。
高齢者マークは何歳から付けるのですか
70歳からが目安です。70歳以上75歳未満は、加齢による身体機能の低下が運転に影響を及ぼすおそれがあるときの努力義務で、75歳以上になると条件を問わず対象になります。どちらの年齢でも付けていないことへの罰則はありません。
75歳からだと聞いたのですが、どちらが正しいですか
どちらにも根拠があります。1997年の導入当初は75歳以上が対象で、2002年に70歳以上へ引き下げられ、2008年6月には75歳以上の表示が罰則付きで義務化されました。ただし2009年4月24日に適用が停止され、現在は70歳からの努力義務として運用されています。
付けないと罰則はありますか
現在はありません。義務の条文は道路交通法第71条の5第2項に残っていますが、附則第22条により当分の間適用しないとされています。この附則が削除されるなどの法改正があれば、違反点数1点、反則金4,000円が科されることになります。
高齢者は65歳からなのに、なぜマークは70歳からですか
それぞれの線が別の制度で、別の目的のために引かれているためです。65歳は統計や医療、雇用の分野で使われる区分で、医療制度では65歳から74歳が前期高齢者、75歳以上が後期高齢者にあたります。70歳と75歳は運転能力に着目して設定された線で、この年齢を境に視力や判断の速度に統計的な変化が現れることを踏まえたものです。
免許更新は何歳から何が変わりますか
70歳以上になると高齢者講習の受講が必要になり、免許証の有効期間も70歳で4年、71歳以上で一律3年に短縮されます。ゴールド免許でも短縮される点に注意してください。75歳以上では認知機能検査が加わり、過去3年間に一定の違反歴がある場合は運転技能検査に合格しないと更新できません。
70歳になると使える駐車の制度があると聞きました
高齢運転者等専用駐車区間制度があり、70歳以上の運転者が対象になります。官公庁や病院、郵便局の周辺の道路に設けられた専用区間に、交付を受けた標章を掲示して駐車できる仕組みです。<cite index=”276-1″>住所地を管轄する警察署に、申請書と運転免許証、自動車検査証を持参して申請します。ただし区間が設置されていない県もあるため、事前に確認してください。</cite>
何枚必要で、どこに貼るのですか
車の前面と後面にそれぞれ1枚ずつ、合計2枚が必要です。位置は地上0.4メートル以上1.2メートル以下の、前方または後方から見やすい場所と定められています。フロントガラスや運転席助手席のサイドガラスには取り付けられません。
家族が付けてくれません。どう伝えればいいですか
努力義務なので、法律を根拠に押すことはできません。危ないから付けてほしいと言うと運転能力の否定として受け取られるため、周囲に配慮してもらうために付けてほしいという伝え方に変えてください。マークを付けた車への幅寄せや割込みは相手側の違反になり、1点と反則金6,000円が科されるという事実を添えると、守られる側の話として届きます。

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