七十歳の誕生日を迎えた父が、そろそろ四葉マーク付けなきゃかな、とつぶやいた。母はまだ元気なのに恥ずかしいと反対したが、父は周りの人に迷惑をかけたくないと言ってホームセンターで買ってきた。貼った最初の数日は、年寄りだと思われそうで気が進まないとこぼしていた。
四葉マークを付ける年齢は70歳から。道路交通法が定めているのはそこで、義務ではなく努力義務になる。付けなくても罰則はない。罰則があるのは、マークを付けた車に幅寄せした側だ。
年齢の答えだけなら三行で終わる。実際に検索する人が知りたいのはその先で、付けるとどう変わるのか、拒む親をどう動かすのか、付けたら運転をやめろと言われるのかという部分になる。
四葉マークは70歳から。ただし義務ではなく努力義務
正式名称は高齢運転者標識で、シルバーマークやシニアマークとも呼ばれる。表示は70歳以上の運転者の努力義務で、付けなくても罰則はない。
条文には年齢ともう一つの条件が並んでいる
道路交通法第71条の5は、70歳以上の人が、加齢に伴って生ずる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがあるとき、普通自動車の前面と後面に高齢運転者標識を付けて運転するよう努めなければならない、と定めている。
読み落とされやすいのは、条件が二つ並んでいる点だ。70歳以上であること。そして身体の機能が落ちてきたと感じていること。この二つがそろったときに努める、という書き方になっている。70歳の誕生日を境に、自動的に何かが発生するわけではない。
75歳から義務という説明が残っている理由
75歳以上は義務、と書かれた古い記事や貼り紙を見た人がいる。2008年の改正で75歳以上に表示義務と罰則が設けられたのは事実だ。ところが反発が大きく、翌2009年の改正で当分の間は適用しないことになった。附則第22条によって義務規定が止まったまま、条文だけが残っている。
条文自体は今も生きていて、この附則が削除されれば違反点数1点と反則金4000円が復活する形になる。当面は努力義務、というのが正確な現在地だ。
70歳は免許更新の中身も変わる年
マークとは別に、更新手続きそのものが70歳で変わる。
- 70歳から74歳は、更新時に高齢者講習を受ける
- 75歳以上は、高齢者講習に加えて認知機能検査を受ける
- 75歳以上で一定の違反歴がある人は、さらに運転技能検査が加わる
判定は更新期間満了日の年齢で決まり、通知のはがきは満了日のおよそ半年前に届く。父が四葉マークを意識したのも、この講習の案内が来た時期だった。
もみじマークと四葉マーク、どちらでもいい
四つ葉のクローバーとシニアのSを組み合わせた今のデザインは2011年からのものだ。それ以前の、黄色と橙色の水滴のような形のものがもみじマークで、こちらも引き続き有効になる。手元に古いマークがあるなら買い替えなくていい。
付けなくても罰則はない。罰則があるのは周りの車のほう
幅寄せや割り込みは反則金6000円と1点
危険防止のためやむを得ない場合を除いて、高齢運転者標識を付けた車に幅寄せしたり、無理な割り込みをしたりすると、初心運転者等保護義務違反になる。
反則金は普通車で6000円、大型車と中型車で7000円。違反点数は1点。
若葉マークと同じ枠組みで、周囲の側に配慮が義務づけられている。付けた本人には何の罰則もなく、周りだけが縛られる。この非対称が、マークの実利になる。
付けた人が感じた、後ろの車の変化
父は貼って数日で、後ろの車が無理に追い越さなくなった気がすると言い出した。案外つけてよかった、と。
近所の七十代の女性は、家族に勧められてもなかなか付けなかった。もみじマークの頃から抵抗があったと言って譲らない。決意したのは、スーパーの駐車場で若いドライバーに幅寄せされそうになった日だった。付けてからは周りが少し優しくなった気がすると喜んでいたが、同時に、これで運転を続ける言い訳みたいで複雑だとも話していた。
この複雑さは多くの人が通る。マークは安全のための道具であると同時に、自分が守られる側に回ったという通知でもある。
付けたくない気持ちの正体
年寄り扱いされるのが嫌という抵抗
母は最後まで恥ずかしいと言い、父自身も最初は気が進まないとこぼした。
これを見栄や意地で片づけると話が止まる。マークを貼る行為は、身体が落ちてきたという自覚を、車体の外側に書いて公道を走ることになる。胸の内で認めるのと、すれ違う全員に向けて表示するのとでは、重さが違う。
付けたら返納を迫られるという恐れ
七十二歳の男性は、付けたらもう運転をやめろと言われそうで怖い、と漏らしていた。実際、マークを付けるくらいなら返納してと家族から圧力がかかる家もある。
この恐れには根拠がある。だから勧める側が先に線を引いておく。マークを付けることと免許を返すことは別だと、最初に言葉にして渡す。ここを曖昧にしたまま勧めると、本人はマークの向こうに返納の二文字を見てしまう。
逆に、付けたことでまだ運転できると自信を持ち続ける人もいる。
事故が起きてから付けた人
七十五歳を過ぎても付けずに走り続けていた男性がいた。息子が、事故が起きてからでは遅いと何度も説得したが、まだまだ若い連中より上手いと聞き入れない。
軽い接触事故を起こして、ようやく付けた。事故の相手は、四葉マークが付いていればもっと気をつけていただろうと言ったそうだ。息子は安堵し、本人は必要ないのに付けさせられたと少し拗ねていた。
上手いか下手かの土俵にいる限り、この人は付けない。どれだけ上手くても、後ろの車が距離を取るかどうかは自分では操作できない。マークが変えるのは自分の運転ではなく、周りの運転のほうだ。
家族が勧めるときの言い方
運転の腕の話にしない
説得が失敗するのは、たいてい入口を間違えたときだ。危ないから、心配だからと切り出せば、腕を疑われたと受け取られる。
田舎に住む知人の祖父は、講習を受けた後すぐにマークを買った。年齢を隠すより、周囲に配慮してもらうほうが安全だと割り切っていたという。孫におじいちゃんの車だねと笑われても、いいんだよ安全が一番だ、と返す。
この人は自分の能力の話を一度もしていない。周囲に配慮させるための装置として扱っている。勧める側が借りるべき言葉も、そちらになる。
デザインを本人に選ばせる
七十歳を迎えた母親のために、娘がネットで可愛いデザインのものを探した家がある。母親はこんな派手なのは嫌だと最初は渋り、結局明るい色のものを選んだ。貼った初日、近所の人に素敵なマークねと声をかけられて嬉しそうだったそうだ。
選ぶ工程を本人に渡すと、貼られるものから選んだものに変わる。買ってきて手渡すのではなく、隣に座って一緒に画面を見る。三十分の手間が、数年続く押し問答を消すことがある。
貼り方と買い方で迷わないために
前後に一枚ずつ、高さは0.4メートルから1.2メートル
道路交通法施行規則第9条の6が、貼る位置を決めている。
- 車体の前面と後面に一枚ずつ
- 地上0.4メートル以上1.2メートル以下の見やすい場所
- フロントガラスへの貼り付けは不可。内側から吸盤で付けるのも避ける
条件は若葉マークとまったく同じだ。前はボンネット、後ろはナンバープレートの脇から後部ライトまでの間が定番になる。マグネット式が主流だが、アルミや樹脂のボンネットには付かない車種があるので、その場合は着脱できるシール式を探す。
どこで買えるか
運転免許試験場、免許更新センター、更新を扱う警察署で販売している。カー用品店、ホームセンター、100円ショップ、通販でも手に入る。自治体によっては70歳以上に無料で配っているところもあるので、高齢者講習を予約する電話のついでに聞いてみると早い。
マークを付けた車を見かけたとき
道路での反応は割れている。スポーツカーに貼ってあると意外だと驚く人がいて、制限速度よりかなり遅い車に苛立つ人がいる。ウインカーを出さずに曲がる車や、対向車線にはみ出してくる車を見て、マークが付いていても注意は要ると感じる声も多い。
後ろから追い抜こうとしてきた高齢者マークの車と、危うく正面衝突しかけたドライバーもいる。マークがあるから安全というわけじゃない、と彼は言った。
このマークは運転が安全である証明ではなく、配慮を求める合図だ。見かけた側がやることは、評価ではなく距離を取ることになる。
何歳まで付けるか、優先スペースは使えるか
外す年齢は決まっていない。付け始めるのも70歳より前でかまわず、69歳で貼っても違反にはならない。体調に不安が出た時点で早めに貼っている人もいる。
駐車場の四葉マーク優先スペースについて、何歳から使えるのかと疑問を持つ人がいる。七十歳になったらすぐ付けて優先スペースを使おうと思っていた、と笑っていた女性もいた。ただ、あの区画に年齢の条件はない。法律の裏づけもなく、施設が任意で設けているものが多い。マークを付けた車を優先するという運用で、細かい決まりのない場所も少なくない。
70という数字は、付けはじめの目安であって、付けるかどうかの判断そのものではない。父が貼った日、母は最後まで恥ずかしいと言っていた。それが今では、二人で出かけたときに後ろの車が距離を取るのを、母のほうが先に見つけて口にする。
STEP5|FAQ
Q. 四葉マークは何歳から付けるのですか
70歳からです。道路交通法は、70歳以上で加齢に伴う身体機能の低下が運転に影響するおそれがあるとき、車の前面と後面に表示するよう努めなければならないと定めています。年齢と体の状態という二つの条件がそろったときの努力義務で、誕生日に自動的に義務が生じるわけではありません。
Q. 四葉マークを付けないと罰則はありますか
ありません。表示は努力義務で、付けずに運転しても違反にはなりません。罰則があるのは逆の側で、マークを付けた車に幅寄せや無理な割り込みをすると、普通車で反則金6000円と違反点数1点が科されます。
Q. 75歳から義務だと聞きましたが本当ですか
現在は義務ではありません。2008年の改正で75歳以上に表示義務と罰則が設けられましたが、反発を受けて2009年の改正により当分の間は適用しないことになりました。条文自体は残っているため、将来の法改正で義務が復活する可能性はあります。
Q. もみじマークはもう使えないのですか
使えます。四葉マークは2011年から導入された新しいデザインで、それ以前のもみじマークも引き続き有効です。手元にある古いマークを買い替える必要はなく、どちらを選んでも問題ありません。
Q. 四葉マークはどこに貼ればいいですか
車体の前面と後面に一枚ずつ、地上0.4メートル以上1.2メートル以下の見やすい場所に貼ります。前はボンネット、後ろはナンバープレートの脇が一般的です。フロントガラスへの貼り付けは認められておらず、内側から吸盤で付けるのも避けてください。
Q. 四葉マークはどこで買えますか、いくらですか
運転免許試験場や免許更新センター、更新を扱う警察署のほか、カー用品店、ホームセンター、100円ショップ、通販で購入できます。数百円から千円程度が中心です。自治体によっては70歳以上に無料配布しているところもあるため、高齢者講習の予約時に確認すると手間が省けます。
Q. 70歳未満でも付けていいですか。何歳まで付けるのですか
70歳未満で付けても違反にはならず、体調に不安があるなら早めに貼っている人もいます。外す年齢の決まりもないため、いつ外すかは本人の判断になります。
Q. 駐車場の四葉マーク優先スペースは何歳から使えますか
年齢の条件はありません。法律で定められた区画ではなく、施設が任意で設けているものが多いためです。マークを表示した車を優先するという運用が中心で、明確な決まりのない場所も少なくありません。

コメント