前を走る軽自動車の後ろに、四つ葉のマークが貼ってある。速度は制限の半分ほど。後ろには列が伸びている。抜いていいのか、抜いたら何か言われるのか。ハンドルを握ったまま、頭の片隅でそれを考えたことのある人は多い。
先に答えを置く。高齢者マークを付けた車を追い越す行為そのものは、違反ではない。禁止されているのは追い越しではなく、その前後にやりがちな二つの動作だ。
罰則の対象になるのは、次の行為になる。
- 側方への幅寄せ
- 前方への無理な割込み
危険防止のためやむを得ない場合を除き、高齢運転者標識を付けた普通自動車に幅寄せや割込みをした運転者は処罰される。道路交通法第71条第5号の4に定められており、5万円以下の罰金、普通自動車の反則金は6,000円、基礎点数は1点になる。
つまり、車線を分けて安全に抜く分には何の問題もない。問題になるのは、抜いたあとに前へ切り込むことと、横に寄せて圧をかけることだ。
追い越すこと自体は違反ではない
禁止されているのは幅寄せと割込み
この規定は初心運転者等保護義務違反と呼ばれ、高齢者マークだけでなく初心者マーク、聴覚障害者マーク、身体障害者マークを付けた車にも同じように適用される。初心運転者、高齢者マークを付けている高齢運転者などが運転しているとき、危険を避けるためやむを得ない場合のほか、その車の側方に幅寄せをしたり前方に無理に割り込んだりしてはならない、という形で定められている。
追い越しを制限する条文ではない。マークを見た瞬間に抜いてはいけないと思い込んでいる人がいるが、それは誤解になる。逆に、マークが付いていない車に対して幅寄せや割込みをすれば別の違反が適用されるだけで、危険な行為が許されているわけでもない。
違反すると1点と反則金6,000円
反則金は車種で分かれていて、大型自動車と中型自動車は7,000円、普通自動車と自動二輪車は6,000円、小型特殊自動車は5,000円。点数は1点になる。
金額としては大きくない。ただ、ゴールド免許を持っている人にとっては次回の更新で色が変わり、任意保険の割引が消える。反則金以上の損になることが多い。
なお高齢者マークの表示は70歳以上の運転者への努力義務であり、付けていなくても運転者に罰則はない。2009年の法改正で、75歳以上の表示義務が廃止され、すべて努力義務に統一された。逆に言えば、マークを付けていない高齢ドライバーも大勢いる。目印がある車だけを警戒しても意味は薄い。
抜こうとすると加速する、あの現象
並んだ瞬間に、初めて存在を認識している
お盆の高速道路で、マークを貼った軽が遅いので抜こうとしたら、急にスピードを上げてきた。そう話していた人がいた。田舎道でも同じことが起きる。ゆっくり走っていたはずが、抜きにかかった途端に速くなる。体内にスイッチがあって、急に入るのだろう、という言い方をしていた人もいた。
意地悪でやっているように見えるが、大半はそうではない。加齢とともに有効視野が狭くなり、正面以外の情報を拾いにくくなる。後方や斜め後ろから接近している車は、視界に入っていない。並走してはじめて、横に車がいるという事実が届く。
そこで何が起きるか。隣に車が現れた驚きと、周囲の流れに合わせようとする無意識の反応で、アクセルの踏み込みが変わる。本人には加速したという自覚がないことが多い。
これを競争と受け取ると、押し切ろうとして対向車線に長く留まることになる。抜き際の数秒が、この場面でいちばん危ない時間帯になる。
そもそも一定の速度で走れていない
50キロ制限の追い越し禁止道路を20キロで走り続ける車に遭遇した、という話もあった。速度計を見ながら一定に保つ作業は、実は注意力を使う。前方の処理に手一杯になると、速度は勝手に上下する。
だから、遅い車が遅いまま走ってくれるとは限らない。抜く前に見た速度差が、抜いている最中にそのまま維持される前提で計算すると外れる。追い越しに必要な距離は、想定より長く取っておく。
追い越す前に、その場所を見る
イエローラインが引かれたトンネルに入った途端、後続車が次々と堂々と追い越しを始めた。それを見て驚いた人がいた。速度差が大きいと、禁止区間かどうかの判断が飛ぶ。ここで確認しておく価値がある。
標識と黄色い線は意味が違う
似ているようで別物になる。追越し禁止の標識がある場所では、追い越し行為そのものができない。前の車が左に寄って譲ってくれても、抜けない。
一方、中央線が黄色い実線の区間は、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止を意味する。対向車線にはみ出すことが禁止されているだけで、はみ出さずに済む追い越しは可能ということになる。片側一車線の道では実質的に抜けないが、意味としては別の規制だ。
追い越し禁止の場所で違反した場合、違反点数は2点、反則金は普通車で9,000円になる。
標識がなくても追い越せない場所がある
道路交通法第30条は、標識の有無にかかわらず追い越しを禁じる場所を並べている。道路の曲がり角付近、上り坂の頂上付近、勾配の急な下り坂、車両通行帯のない道路のトンネル、交差点、踏切、横断歩道、自転車横断帯とその手前30メートル以内が該当する。
先ほどのトンネルの話は、車両通行帯があるかどうかで扱いが変わる。片側一車線で通行帯がなければ、トンネル内は追い越し禁止だ。黄色い線と重なれば、二重に禁じられていることになる。
覚え方としては、対向車が見えなくなる場所と、歩行者や自転車が出てくる場所は抜かない。この二つで大半をカバーできる。
追い越しの最中に起きる、予測しづらい動き
頻繁なブレーキは進路変更の予兆
前方が空いているのに何度もブレーキを踏む車がいたら、追い越しを見送る判断をしていい。目的地を探しているか、道に迷っているか、曲がる場所を決めかねている状態のことが多い。
そういう車は、ノールックで方向指示器も出さずに車線変更してくる可能性がある。実際、高速道路の追い越し車線で追い越し中に、寸前でウインカーも点けずに入られたという話があった。真っ直ぐ走れないのか、と不安になったそうだ。
ウインカーが極端に遅い車も同じ扱いでいい。曲がり始めてから点く場合、その人の中では手順が省略されている。ミラーをたたんだまま走っていたり、車線変更の感覚で交差点を曲がっていたり、右折時に斜行したりする様子は、いずれも同じ根から出ている。
停止している車を追い抜いて対向車線へ出る
対向車が来るので停止していたら、後ろから追い抜かれて、その車が対向車に向かっていった。対向車がかわしてくれたので事故にはならなかったが、あわやという場面だった。この体験を語った人は、マークを付けていてもそれで何をやってもいいわけではない、と強く感じたという。
前の車が止まっているとき、その理由が見えていない状態で抜くと、こうなる。追い越す側が高齢ドライバーである場合もあるということだ。マークの車を警戒するだけでは足りず、自分が停止しているときの後方にも注意がいる。
苛立ちが妨害運転罪に変わる線
車間を開けて走っていたのに、後方の車がセンターラインを割って煽ってきた。前が遅い車だったため、自分が挟まれる形になった。そう話していた人がいた。この後方の車がやっていることは、罰則の対象になる。
妨害運転罪は、他の車両等の通行を妨害する目的で、急ブレーキ禁止違反や車間距離不保持など一定の違反行為をした場合に適用され、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、違反点数25点、免許取消となり欠格期間は2年になる。高速道路で他の自動車を停止させるなど著しい交通の危険を生じさせた場合は、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、35点、欠格期間3年になる。
対象となる類型には、通行区分違反、急ブレーキ禁止違反、車間距離不保持、進路変更禁止違反、追越し違反、減光等義務違反、警音器使用制限違反、安全運転義務違反、高速道路での最低速度違反、高速道路等での駐停車違反が含まれる。2026年4月1日からは、自動車が自転車の右側を通過する場合の通行方法に関する規定の違反も類型に加わった。
25点は一回で免許が消える点数だ。酒気帯び運転と同じ重さになる。追い越し違反やパッシングも、妨害の目的があったと判断されれば、ここに吸い上げられる。
前が遅いという理由は、この判断を軽くしない。遅い車に苛立った側が、結果として最も重い処分を受ける構図がある。
抜かないと決めたときの走り方
高齢者マークの車を見かけたら無理に追い越さず、車間を取って様子を見る人が増えている。急な加速や予測不能な動きを想定しておかないと、自分が巻き込まれると実感しているからだ。
抜かないと決めたら、やることは三つになる。
車間を通常より長く取る。前車の速度が上下しても、こちらのブレーキが急にならない距離を確保する。次に、対向車線の見通しが利く直線に入るまで、追い越しの構えを見せない。斜めに寄せた姿勢は、相手に幅寄せとして伝わる。最後に、後続が詰まっていても、後ろのために抜く判断はしない。後方の車の焦りを自分の判断に混ぜると、行かなくていい場面で出ることになる。
危険な運転に遭遇したときは、安全な場所に避難してから車外に出ずに110番通報し、ドライブレコーダーの映像は加工や消去をせずに保管しておく。
マークは配慮を求める標識であると同時に、周囲にとっては注意を促すサインでもある。貼っている本人がそこまで意図していなくても、受け取る側は後者として使っていい。
高齢者マークの車を追い越すと違反になりますか
追い越すこと自体は違反ではありません。禁止されているのは幅寄せと割込みで、危険防止のためやむを得ない場合を除いてこれらを行うと、5万円以下の罰金、普通自動車で反則金6,000円、基礎点数1点が科されます。車線を分けて安全に抜き、十分な距離を空けてから戻る分には問題ありません。
幅寄せや割込みの反則金はいくらですか
大型自動車と中型自動車等は7,000円、普通自動車と自動二輪車は6,000円、小型特殊自動車は5,000円で、いずれも基礎点数1点です。初心運転者等保護義務違反として扱われ、初心者マークや聴覚障害者マーク、身体障害者マークを付けた車にも同じ規定が適用されます。ゴールド免許の人は次回更新で免許の色が変わるため、金額以上の負担になります。
高齢者マークは何歳から付けるもので、義務ですか
70歳以上の運転者が対象で、表示は努力義務です。付けていなくても運転者に罰則はありません。2009年の法改正で、それまで75歳以上に課されていた表示義務が廃止され、すべて努力義務に統一されました。マークのない高齢ドライバーも多いため、目印だけを頼りに警戒しても不十分です。
なぜ追い越そうとすると加速してくるのですか
加齢とともに視野の広がりが狭くなり、後方や斜め後ろから接近する車を認識できていないためです。並走してはじめて隣の車の存在に気づき、驚きと周囲に合わせようとする反応でアクセルの踏み込みが変わります。本人に加速した自覚がないことが多いので、競争と受け取らず、必要な距離を通常より長めに見積もってください。
追い越し禁止の標識と黄色い線は何が違いますか
追越し禁止の標識がある場所では追い越し行為そのものが禁止され、前の車が譲ってくれても抜けません。中央線が黄色い実線の区間は追越しのための右側部分はみ出し通行禁止を意味し、対向車線にはみ出さない追い越しであれば可能です。片側一車線では実質的にどちらも抜けない状態になります。
標識がなくても追い越してはいけない場所はどこですか
道路の曲がり角付近、上り坂の頂上付近、勾配の急な下り坂、車両通行帯のない道路のトンネル、交差点、踏切、横断歩道、自転車横断帯とその手前30メートル以内です。違反した場合は違反点数2点、普通車の反則金9,000円になります。対向車が見えなくなる場所と、歩行者や自転車が出てくる場所は抜かないと覚えると判断が早くなります。
前の車が遅すぎる場合、こちらが煽っても仕方ないのでしょうか
前が遅いという事情は処分を軽くしません。妨害運転罪に当たると、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、違反点数25点で免許取消となり、欠格期間は2年です。高速道路で相手を停止させるなど著しい危険を生じさせた場合は35点、欠格期間3年になります。パッシングや車間距離を詰める行為も類型に含まれるため、遅い車に苛立った側が最も重い処分を受けることになります。
追い越し中に相手が加速してきたら、どうすればいいですか
対向車線にはみ出している状態なら、押し切らずに減速して自分の車線へ戻ってください。追い越しに要する距離が伸びるほど正面衝突の危険が上がり、速度が合算されるため被害が大きくなります。見通しの利く直線で、余裕を持ってやり直す方が結果的に早く済みます。
危ない運転の車に遭遇したら通報していいですか
危険を感じた時点で通報して構いません。駐車場やサービスエリアなど安全な場所に避難し、車外に出ずに110番通報してください。ドライブレコーダーの映像は有力な資料になるため、加工や消去をせずに保管しておきます。走行中の通報は避け、同乗者がいる場合は同乗者に依頼してください。

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