老害の顔つきは何が違うのか|表情の癖と、誤解されている顔

病院の待合室で長く順番を待っていると、高齢の人が二つに分かれて見えてくる。窓口にきつい言葉を投げる人と、何かしてもらうたびにありがとうと口にする人だ。

後者は後期高齢者になっても表情がやわらかく、威張らない。前者は眉間に力が入っていて、話す前から不機嫌に見える。自分の人生に満足している人は顔を見れば分かる、と話していた人がいた。

この観察には、当たっている部分と外れている部分がある。

顔つきに実際に出るものは、こうなる。

  • 何十年も繰り返してきた表情の癖
  • 聞こえや見え方の衰え
  • 痛みや病気
  • 重力による皮膚と脂肪の下がり

出ないものは、その人の善悪や知性そのものだ。ここを混ぜると、判断を大きく誤る。

目次

顔に残るのは性格ではなく、繰り返した表情

同じ筋肉を使い続けると線が残る

眉間の縦皺は、皺眉筋という眉を寄せる筋肉が繰り返し収縮することでできる。若いうちは肌の弾力で戻るが、真皮のコラーゲンが減ると戻りきらなくなり、動かしていないときも線が残る。

口の周りも同じで、口角を下に引く口角下制筋をよく使う人には、口の端から顎に向かう線が刻まれる。逆に、頬を持ち上げて笑うことの多い人は、目尻に放射状の線が残る。

同じ80歳でも、目尻に扇状の線がある人と、眉間に深い縦線がある人がいる。これは性格の刻印というより、どの筋肉をよく使ってきたかの記録になる。何十年も不満を顔に出してきた人の顔には、不満の形が残る。表情の癖が積み重なると、無表情のときの見え方まで変わっていく。

重力で口角は誰でも下がる

ただし、加齢による変化は表情の癖と無関係に進む。皮下脂肪が減り、頬を支えている靭帯がゆるみ、皮膚全体が下へ移動する。その結果、何もしていなくても口角が下がり、目の下がくぼむ。

つまり、穏やかに暮らしてきた人でも、年齢とともに黙っているときの顔は不機嫌寄りに見える。ここを性格と読み違えると、大量の誤解が生まれる。

不機嫌に見える顔の、半分は不機嫌ではない

表情が濁って見える、生気がないと感じる。そうした印象の背後には、性格以外の理由が並んでいる。

聞こえていないから眉間に力が入る

加齢性の難聴は高い音から落ちるため、会話の子音が抜ける。話しかけられていることは分かるが、内容がつかめない。

この状態で人は何をするか。無意識に眉間を寄せ、身を乗り出し、口元を凝視する。集中して聞き取ろうとする姿勢が、外からは睨んでいるように見える。聞き返すのを恥ずかしがる人ほど、この姿勢が長く続く。

険しい表情の相手が、実は必死で聞き取ろうとしているだけ、という場面はかなりの割合を占める。

見えていないから目が細くなる

白内障が進むと、光がにじんで対象がぼやける。焦点を合わせようとして目を細める癖がつく。眼精疲労やドライアイでも同じことが起きる。

目を細めた顔は、疑っている表情や不快な表情と形が似ている。読み取る側は、その形から感情を推測してしまう。

表情が動かないのが病気のサインである場合

もう一つ、見落とすと重い話がある。表情が乏しくなる状態そのものが、病気の症状であることだ。

仮面様顔貌は、パーキンソン症候群に見られる状態で、無表情になり、まばたきが減り、一点を見つめるような顔つきになる。これは顔の筋肉の動きの問題であって、感情が失われているわけではない。パーキンソン病のほか、うつ病などの精神疾患の症状としても現れる。

うつ病では感情の平板化や精神運動抑制により、表情や声のトーンから活気が消える。甲状腺の機能が落ちても、動作と表情が鈍くなる。

親の表情が険しくなった、笑わなくなった、という変化を性格の変質として受け取っている家族は多い。ただ、数か月から一年ほどのあいだに変わったのなら、いちど神経内科か心療内科で診てもらう価値がある。老害という言葉で処理すると、治療の機会が消える。

それでも、内面が顔に出る部分はある

満足している人の顔が違う理由

誤解の要素を差し引いてもなお、穏やかな高齢者と険しい高齢者の顔は違って見える。これは気のせいではない。

年齢を重ねて身体が思うように動かなくなったとき、助けてもらえることに感謝できる人は、人と接するたびに頬を上げる。頻度が違えば、使う筋肉も変わる。ありがとうを一日に何度も口にする生活と、一度も言わない生活では、数十年で顔に差が出る。

観察していた人の言葉を借りれば、上から目線で老人をいたわるのが当たり前だと考える人と、下から目線でありがとうと言える人では、世界の見え方がまるで違う。顔つきはその表れになる。

コントロールを失った感覚が威嚇として出る

他人に当たり散らす人は、自分が情けなく、いまの自分に満足していないから威嚇している。そう見立てた人がいた。

心理の観点から見ても、この読みは的を外していない。加齢とともに人は多くの決定権を手放していく。仕事の役割、運転、財布、住む場所。自分で動かせる範囲が減ると、残った場面で強く出ることで感覚を取り戻そうとする。窓口や店員に対して強く出る人が多いのは、そこが数少ない優位に立てる場だからだ。

田舎で暮らす人が、以前より優しい高齢者が減り、すぐ気色ばむ人が増えたと感じていた。経済的な余裕のなさが表情に出ている、という見立てだった。余裕の欠如とコントロール感の喪失は、多くの場合セットで来る。

顔つきは単独では読まれていない

ここで、判断の限界を確認しておく。

人が老害の顔だと感じるとき、実際に見ているのは顔だけではない。声の大きさ、話の内容、割り込む動作、謝らない態度。それらと同時に処理された結果を、顔の印象として記憶している。

介護施設で、夜勤明けのスタッフが自分は一人で回せたと得意げに報告してきたが、利用者の顔には目やにが残り、髪も服も整っていなかった、という話があった。ここで印象を決めているのは表情ではなく、自己評価と実態のずれのほうだ。

紹介した仕事が流れても一言も謝らず、平気な顔で絡んでくる人に苛立った、という経験も同じ構造になる。都合の悪いことをなかったことにする表情が、その後の記憶では顔つきとして残る。

第一印象から性格を当てる精度は、研究の上でも高くない。にもかかわらず人は顔で判断し、いちど判断すると、その後の行動をその枠に合わせて解釈していく。険しい顔の人を先に敵と決めると、相手の言動から敵の証拠だけを拾うようになる。この順序は、自分の側で止められる。

自分の顔の定位置を変える

黙っているときに顔が落ち着く形を、ここでは顔の定位置と呼ぶ。ここが険しいと、何もしていない時間の印象が決まってしまう。

表情を作ると気分は動くのか

笑顔を作れば気持ちが明るくなるという説は、長く議論されてきた。1988年の実験は有名になったが、2016年に17の研究室で行われた追試では同じ効果が確認されず、疑問符がついた。

その後、賛成派と反対派の研究者が共同で検証を行った。2022年にNature Human Behaviourへ発表された研究では、19か国の3,878人に表情を作らせて幸福度を測り、口角を上げる課題を通じて気分に影響が現れる可能性が示された。

効果の大きさは限定的だ。笑えばすべて解決するという話ではない。ただ、表情が気分に一方通行で従うのではなく、双方向に影響し合うという理解は妥当な範囲にある。

顔より先に、聞こえと痛みを整える

顔の定位置を変えたいなら、表情を意識する前にやることがある。

  • 聞こえの検査を受ける。聞き取ろうとして眉間に力が入る状態を減らす
  • 眼科で視力と白内障を確認する。目を細める癖の原因を取り除く
  • 腰痛や膝痛、歯の痛みを放置しない。慢性的な痛みは表情に固定される

不機嫌に見える原因の多くは、気分ではなく身体にある。ここを直すと、意識しなくても顔が変わる。

上から見るか、下から見るか

そのうえで、日常の中で口に出す言葉を変える。ありがとうを言う回数は、そのまま頬を上げる回数になる。当たり前だと思っている場面を一日に三つ見つけて言葉にするだけで、数年で使う筋肉の配分が変わる。

若い人の意見を最後まで聞く、間違いを認める、列に並ぶ。これらは道徳の話に見えて、実際には表情の話でもある。反発を溜め込む生活は、眉間を使う生活になる。

65歳から70歳で差が開くと言われる理由

65歳から70歳あたりで顔立ちに大きな違いが出る、と感じている人がいた。この年代に何が起きているかを考えると、理由は見える。

仕事の役割が終わり、毎日の予定と肩書きが同時に消える。人と話す回数が減り、頬を上げる場面が減る。同じ時期に、聞こえと視力の低下が進み、身体のどこかに慢性的な痛みが出始める。

満足したまま退職した人と、不満を抱えたまま定年を迎えた人では、その後に生まれる時間の使い方が違う。前者は人と会う予定を作り、後者は家にこもって過去を反芻する。五年経てば、使ってきた筋肉も、刻まれた線も別のものになる。

差が開くのは顔ではなく、その手前の生活のほうだ。だから、いま眉間に線があっても、そこで確定するわけではない。定位置は、まだ動かせる。

眉間の皺はどうしてできるのですか

眉を寄せる皺眉筋が繰り返し収縮することで刻まれます。若いうちは肌の弾力で元に戻りますが、真皮のコラーゲンが減ると戻りきらず、力を抜いている状態でも線として残ります。同じ理由で、口角を下げる癖のある人には口の端から顎に向かう線が、よく笑う人には目尻に放射状の線ができます。

年をとると口角が下がるのは性格のせいですか

性格とは無関係に進む変化です。皮下脂肪が減り、頬を支える靭帯がゆるみ、皮膚全体が下へ移動するため、何もしていなくても口角が下がります。穏やかに過ごしてきた人でも黙っているときの顔は不機嫌寄りに見えるので、そこから内面を判断するのは無理があります。

険しい表情の人は怒っているのですか

聞き取ろうとして眉間に力が入っている場合が多くあります。加齢性の難聴は高い音から落ちて子音が抜けるため、内容をつかもうとして眉を寄せ、身を乗り出し、口元を凝視する姿勢になります。白内障や視力低下で目を細めている場合も、疑っている表情と形が似ているため誤解されやすくなります。

顔つきから性格は分かりますか

第一印象から性格を当てる精度は高くありません。老害の顔だと感じるとき、実際には声の大きさ、話の内容、謝らない態度なども同時に処理していて、その総合的な印象を顔として記憶しています。いちど判断すると、その後の言動を同じ枠で解釈するようになるため、顔だけを根拠にした判断は避けたほうが正確です。

笑顔を作ると本当に気分は変わりますか

2016年に17の研究室で行われた追試では効果が確認されず、長く議論が続いてきました。2022年にNature Human Behaviourへ発表された19か国3,878人を対象とした検証では、口角を上げる課題を通じて気分に影響が現れる可能性が示されています。効果の大きさは限定的なので、笑顔だけで問題が解決するとは考えないでください。

自分が険しい顔になっていないか確かめる方法はありますか

無意識のときの顔を写した写真や動画を見るのが最も確実です。鏡は見た瞬間に表情を作ってしまうため、素の状態が分かりません。眉間に縦線があるか、口角が下がったまま固定されていないかを確認してください。

顔の印象を変えるには何から始めればいいですか

表情を意識する前に、聞こえの検査と眼科での確認、慢性的な痛みの治療を済ませてください。険しく見える原因の多くは気分ではなく身体にあり、それを取り除くだけで力みが減ります。そのうえで、当たり前だと思っている場面で感謝を口に出す回数を増やすと、頬を上げる機会が増えます。

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この記事を書いた人

シニア向け雑誌の人生相談コーナーの担当として、これまで1000通を超える読者の手紙を読んできました。悩みの多くは、分かってくれる相手が欲しいのだと知りました。定年後の空白、体力の変化、新しい人付き合い。人生後半は終わりではなく仕切り直しの時期です。

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